た後、一座の幹部を紹介した。
× × ×
アンドレ・ジイドの「サユル」をいよいよ舞台に上せると云ふので、コポオは、一座の俳優を悉くヴィユウ・コロンビエ座の図書室に集めた。画家のアトリエにも似た一室、中天井には、フアンタスチツクな衣裳が秩序正しくつるしてある。白木の書架が一方の壁を埋めてゐた。
私は悪魔の司を務めるB夫人から、其の役に使はれる仮面のエスキスを見せてもらひ乍ら、此の脚本の上演について、コポオがどれ程苦心をしたかと云ふ話などを聞いた。ダヴィツドの為には、臨時にオデオン座から美しい裸体の持主を探して来た事なども聞いた。
やがて、コポオの骨張つた顔が、一同をながめまはした。作者ジイドは、薦められた席につきながら、同伴の夫人をかへりみて小心らしい微笑を送つた。
「Sは来てゐるかい」コポオの声に応じて、
「いゝえ、まだ……」誰かゞ答へた。
それに二三の笑声がまじつた。
「仕様がないな」
と、慌しく戸が開いて、小柄なSが、外套を脱ぎ乍ら、「失敗つた」と云ふやうな顔つきをして飛び込んで来た。また、笑声が起つた。
「アツタンシヨン!」コポ
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