君の御言葉を聞き、全く、身の置き所を知りません」と、それは至つてナイーヴな仏蘭西語であつたが、これが、此の真純な天才の言葉に、一層の魅力を添へた。
「私が演劇に趣味を持つたのは、巴里に再三来たお蔭であります。また、私共が、露西亜劇壇に何か新らしい物を与へたとすれば、それは悉く、近代劇の開拓者アントワアヌ氏に負ふてゐると云はなければなりません」満場の拍手を心持よく受けながら、「私は、まだ、ヴィユウ・コロンビエ座の仕事を見てゐませんが、其の名声を通じて、常に、その努力を認めて居たのであります」
「私共は仏蘭西の劇壇に対して、少しでも、教訓を垂れやうと云ふやうな野心は持つて居りません。私共がなしつゝある事を、たゞ、見て頂けばいゝのであります」
「こゝで、お断りして置きたい事は、私共が露西亜語で芝居をやる為に、多くの方々は、多くの露西亜語を解しない方々は、それでは興味の大部分が失はれやうとお思ひになるでせう。然し、其の御心配は無用であります。私共は、露西亜語を使ふ以上に人類共通の言語によつて、皆様に七分通りの興味を与へる事が出来ると確信して居ります」
 アントワアヌ、コポオの両氏と握手を交はし
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