席の土間に満ちてゐた。エベルトオの挨拶がすむと、アントワアヌはその岩のやうな身体《からだ》をスタニスラウスキイの方に進めて、
「吾が親愛なる友、而して、敬慕する偉人」と、呼びかけた。
「私の求め、望み、而して、実現し得なかつたものを、あなたは、あなたの才能と、人格に依つて実現されたのである。」
その熱と、力に満ちた語調は、彼の自由劇場回想録を読んだ者の胸を刺さないではゐなかつた。
「私は仏蘭西劇壇の前途の為めに、あなた方御一行の遠来を感謝します。有難う」アントワアヌの声は異様にふるえた。
世界第一と称せられる劇壇の指揮者、白髪の巨人、スタニスラウスキイの前に立つて「吾が友」と呼び得るアントワアヌの心持に反し、コポオは流石に胸を躍らせてゐるやうに思へた。(こゝで私は、自分の想像が事実をまげる事を恐れる)コポオは演説を準備してゐた。然し其の朗読は平常のコポオを知つてゐる者なら、決して立派な出来栄えであつたとは云はないだらう。たゞその論旨は、芸術座への讃辞として、理解と感銘に満ちたものであつた。
最後に、スタニスラウスキイが満面に微笑をたゝへて、一行の中央から進み出た。
「私は、今、諸
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