奇怪な風習を助長したにはしたが、それ以上に、数百年、数千年を通じて絶えずわれわれの生命を脅やかし、われわれの生活を脅やかし、われわれの愛情を脅やかし続けて来たこの「美しき郷土」は、実に、地震と、雷と、暴風と、海瀟と、噴火と、洪水と、火事と、厳寒と、酷暑と、長い雨期と、そして、それらの災害による饑饉との一手販売人である。かくの如き自然の脅威は、一方これに抵抗する精神力を養ひはするけれども、また一方人間の感情を萎縮させ、たまたま暢やかならんとする気持を乱し狂はすのである。
民族の相貌と表情を観察した上で、その民族の住む国土が、いかなる自然の支配を受けてゐるかを研究して見るがいい。大ざつぱに云つても、北欧の自然は北欧人の相貌と表情をもち、南欧の自然は南欧人の相貌と表情をもつてゐる。そして、支那は支那人の、印度は印度人の……。
日本の自然を美しいといふものがあれば、それは、風景のみを指して云ふのであらう。その風景は単に「ピトレスク」な美しさしかもつてゐない。遠くから眺める風景であつて、その懐に抱かれたい自然ではない。
この議論はこのくらゐにしておいて、さて、日本人の表情は、かくの如く「言
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