セイユ人の仏蘭西語そつくりだ」と宣告した。

     六 表情

「語られる言葉」の効果を間接に助けてゐるものは、顔面の表情と、身ぶり手つきであるが、殊に顔面の表情は、「語られる言葉」そのものと分離して考へることは、困難なほど密接な関係をもつてゐる。
 普通、眼の表情を第一に問題とするのであるが、ある人の説によると、口の表情がこれに劣らず重大な要素であると云つてゐる。これに次いで小鼻の表情が大切である。私の知つてゐる範囲では、ヴィユウ・コロンビエ座のジャック・コポオは、鼻も特別大きかつたが、その小鼻の巧みな動かし方に於いて、正に巴里の群優を抜いてゐた。例へば、小鼻をいつぱいに膨らまして、鼻の下を心持ち長くすると、それだけで、「君が今云つたことは、そりや嘘だらう」といふ意味をはつきり表はしてゐるのである。かうなると、これはもう立派な「言葉」である。
 まして、「言葉」の間接手段たる身ぶり、手つき、その他一切の科《しぐさ》は、顔面の表情と共に、ある場合にはそれのみで人間の思想感情を的確に伝へるものである。そこから、黙劇が成立するのであるが、そして、日本人は最も黙劇のへたな国民であるが、そ
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