、荒れてゐることがあつても、澱みはない。生活にひしがれた声は底力がなく澱んでゐる。
人間の声は、また、その個々の性情、稟質を表はしてゐる。銅羅声は鈍重で粗野、猫撫声は陰険で多情、金切声は気まぐれで打算的、裏声は非常識で見栄坊……などと、少々独断にすぎるかもしれぬが、幾分思ひ当る節がないでもない。
鼻声といふのは、必ずしもその人物の性情を語るものでないが、多くは猫撫声に似て、あまり愉快なものではない。それも、時として、廃頽的な情景の中に点出されれば、一種の感覚的魅力を添へる場合があるにはある。さういふ意味なら、鼻声に限つたわけではないが……。従つて、その原因が、風邪を引いて鼻をつまらせてゐるのでも、一向差支はないのである。
黄色い声などと、声と色彩とを結びつけてゐるのは面白い。
声を腹から出すとか、頭のてつぺんから出すとかいふのも、それぞれ感じが出てゐて面白い。
高い声低い声は、理窟だが、太い声、細い声、丸い声、尖つた声、などといふのは感覚的だ。
音楽の方で、バス、バリトン、テノオル、アルト、ソプラノなどと云つてゐるが、普通の声を、この区別で呼ぶことが近頃日本でもはやつて来
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