」は、「語られる」といふ条件にともなひ、「声」を除外することはできぬ。言葉が、「如何に語られるか」は、「如何なる声」で語られるかといふ重要な点を含んでゐる。
声には、所謂「好い声」と「わるい声」の区別以外に、様々な声のニュアンスといふものがある。
このニュアンスは、例へば楽器の音色のやうなもので、「語られる言葉」の味に、著しい差異をつける。そして、その差異は、啻に感覚的な効果に於いてのみではなく、実に、精神的印象を左右する場合が少くないのである。
「好い声」即ち「美声」の研究については、専門家の手を煩はすとして、私は、ここで、この声のニュアンスといふ問題を、あらまし吟味して見ようと思ふ。
人間の声を、先づ、男の声と女の声とに分けてみる。男の声は、男の声としての美しさをもち、女の声は女の声としての美しさをもつてゐる筈だから、男が女のやうな声を出すことはあまり好ましいことではあるまい。尤も、日本の芝居には、女形といふ変態的存在があり、女形としての美声といへば、舞台化された女の声についていふのであらうが、私は、未だ嘗て、女形の喉から、「美しい」声を聴いたことはない。これは、女形の芸を
前へ
次へ
全44ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
岸田 国士 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング