東、関西、中国、九州、みなそれぞれの言葉をもつてゐる。そして、それは、みなそれぞれの地方を特色づける文化、風土並に気質に根ざす言葉である。
 時代については、「現代」以外にわれわれの「耳」は、その働きを延長し得ないのが残念であるが、その現代にしても、既に、幾つかの「時代」を劃してゐると云へるのである。おやぢの時代、息子の時代、孫の時代等があり、おやぢは、息子との年齢の相違による「言葉」の違ひ以外に、時代の相違による「言葉」の「旧さ」を有つてゐる。おやぢの遣ふ言葉は、単に老人の言葉ではなくして、実に前時代の言葉なのである。即ちこの種の人物は、その「語る言葉」を通して、一つの特色ある「時代」を映してゐると云へるのである。それがまた、場合によつては、意外にもわれわれの興味を惹くに足るのである。
 その他、健康な人の言葉は、病弱な人の言葉とどこかで背中合せをし、酔払ひは酔払ひの言葉しか語らず、革命家は革命家らしく物を言ふ。
 そして、最後に、当面の「事実」と、これに対するその人物の「心理」が、「語られる言葉」の内容と表現の根本を決定するのである。

     四 声のいろいろ

「語られる言葉
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