言権を持つてゐるやうな気がして、得意になつて喋《しやべ》つてゐた。
「凡《およ》そ遊蕩的分子が少ないと云つて、H位少ない者はないだらう。其点がHの短所で、又長所なんだ。併しHが遊蕩しないからと云つて、それを奇特だと云つて賞《ほ》める人は間違つてゐる。Hには初めから全然、遊蕩的分子が欠けてるんだから、其点ではHは、遊蕩を論ずる資格は絶対にないよ。」私はこんな事をさへ云つた。
Hは自分でもそんな資格はないと云ふやうに、まちり/\と笑つて聞いてゐた。
すると傍《そば》にゐたEが、それを面憎《つらにく》く感じたのであらう。突然私に向つて、こんな事を云ひ出した。
「さう云へば君だつて、真実《ほんたう》の遊蕩児でもない癖に、あんな仲間と一緒になつて、得意になつて遊んでゐるのは更に可笑《をか》しいよ。――一体君はあゝ云ふ連中と一緒にゐて、どこが面白いんだい。」Eの言葉は例によつて、短兵急に真《ま》つ向《かう》から来た。
「それや僕が遊ぶのは、彼等と別な理由があつての事だけれど。……何も彼等だつて君が思つてる程取柄のない人間でもないよ。」私は先《ま》づ謙遜に、かう答へねばならなかつた。
すると向
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