良友悪友
久米正雄
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)曳《ひ》いて
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)実際|此《こ》の失恋
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)一種のはにかみ[#「はにかみ」に傍点]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)忘れよう/\と
−−
「失恋が、失恋のまゝで尾を曳《ひ》いてゐる中《うち》は、悲しくても、苦しくても、口惜《くや》しくつても、心に張りがあるからまだよかつた。が、かうして、忘れよう/\と努力して、それを忘れて了《しま》つたら、却《かへ》つてどうにも出来ない空虚が、俺《おれ》の心に出来て了つた。実際|此《こ》の失恋でもない、況《いは》んや得恋でもない、謂《い》はゞ無恋の心もちが、一番悲惨な心持なんだ。此の落寞《らくばく》たる心持が、俺には堪《たま》らなかつたんだ。そして今迄用ゐられてゐた酒も、失恋の忘却剤としては、稍々《やゝ》役立つには役立つたが、此の無恋の、此の落寞たる心もちを医《いや》すには、もう役立ちさうもなく見えて、何か変つた刺戟剤《し
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