げきざい》を、是非必要としてゐたんだ。そこへY氏やTがやつて来て、自分をあの遊蕩《いうたう》の世界へ導いて行つた。俺はほんとに求めてゐたものを、与へられた気がした。それで今度は此方《こちら》から誘ふやうにして迄、転々として遊蕩生活に陥り込んで行つたんだ。失恋、――飲酒、――遊蕩。それは余りに教科書通りの径路ではあるが、教科書通りであればあるだけ、俺にとつても必然だつたんだ。況んや俺はそれを概念で、失恋をした上からには、是非ともさう云ふ径路を取らなければならぬやうに思つて、強《し》ひてさうした訳では決してない。自分が茲《こゝ》まで流れて来るには、あの無恋の状態の、なま/\しい体験があつての事だ。……」
私は其頃《そのころ》の出たらめな生活を、自分では常にかう弁護してゐた。そして当然起るであらう周囲の友だちの非難にも、かう云つて弁解するつもりでゐた。そしてそれでも自分の心持を汲《く》んで呉《く》れず、かうなる必然さを理解して呉れなければ、それは友だち甲斐《がひ》のないものとして、手を別つより外に術《すべ》はないと考へてゐた。併《しか》し、心の底では、誰でもが、自分の一枚看板の失恋を持ち出
前へ
次へ
全25ページ中2ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久米 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング