力を要するために、ふとどうかした機会があると、『俺はかうして彼らと肩を並べるために、伸び上り/\警句めいた事を云つてゐるが、そんな真似《まね》をして何の役に立つのだ。』と云ふ反省が起るからであつた。而してかう云ふ風に醒めて来ると、自分の凡才が憐まれると同時に、彼等のさうした思ひ上つた警句や皮肉が、堪《たま》らなく厭になつて来るのだつた。そこでたとひ第一義的な問題に就《つ》いての、所謂《いはゆる》侃々諤々《かん/\がく/\》の議論が出ても、それは畢竟《ひつきやう》するに、頭脳のよさの誇り合ひであり、衒学《げんがく》の角突合であり、機智の閃《ひら》めかし合ひで、それ以上の何物でもないと、自ら思はざるを得なくなつて来るのだつた。
私は急に口を噤《つぐ》んで、考へ込んで了つた。
すると其処には、自ら別な想像の場面が浮上つた。それはあの『喜撰』の二階であつた。そこの桑の餉台《ちやぶだい》の上には、此処《こゝ》のやうな真つ白な卓布を照らす、シャンデリアとは異《ちが》ふけれど、矢つ張り明るい燈火が点《とも》されてあつた。而してそれを取囲んで、先刻《さつき》別れて来たばかりの、SやYやTやが、折か
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