たが、気を取り直して快活に、「えゝ。今夜は三土会《さんどくわい》だから。鳥渡顔を出して来ます。」と云ひすてて、急いで家を飛び出して了つた。
会場は家のすぐ近所のE軒だつた。私がウエーターに導かれて、そこの二階の一室に上つて行つた時、もう連中は大部分集つて、話も大分|弾《はず》んでゐる所だつた。私が入つて来たのを見つけると、幹事役のEが立上つて、
「やあ、よく来たな。今日も君は居ないかと思つた。」と大声で云つて迎へた。
「いや。……」と私は頭に手をやり乍ら、それでも晴々した気持になつて、揃《そろ》つてゐる皆《みんな》の顔を見渡し乍ら、嬉《うれ》しさうに其処《そこ》の座についた。けれども入つて来るといきなり、Eに一本参つた後なので内心に少々|疚《やま》しさがあつたといふよりも、一種のはにかみ[#「はにかみ」に傍点]から、椅子《いす》は自ら皆の後ろの、隅《すみ》の方を選んで了つた。
席上には一人二人新らしい顔が見えた。Eが「紹介しようか。」と云つて、一々それを紹介して呉れた。それはM大学出の若い人たちだつた。その人たちが吾々の作品――と云つても主としてAのに――傾倒してゐて呉れる事は前か
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