らのやうな、破綻のないものぢやないんだよ。芸術つてものも、彼らのやうに、キチンとしたものぢやないんだよ。――いゝから彼らが離れると云ふんなら、勝手に離れさして了ひ給へ。それは君に取つて、ちつとも差支《さしつか》へがない事だよ。」
私は此の無茶な談義を、不思議にも其時、心から嬉しく聞いてゐた。そして其間にはS君のどき/\鳴る心臓を、すぐそこに感じてゐた。私の眼には、いつの間にか、そつと涙がこみ上げて来てゐた。
Tも黙つてゐた。Y君も其間中黙つて、一人嬉しげに点頭《うなづ》いてゐた。余り一座が傾聴したために、S君は少してれて、
「さあ、それぢや人間界の話はこれ位にして、天人どもを招集しようか。」と云ひ出した。
もう遅かつたけれど、直ちに芸者が呼ばれた。正月のことで、大抵呼んだ顔が揃へられた。而《そ》して又|一頻《ひとしき》り、異ふ意味での談話が盛つた。が、それでも二時近くなると、芸者たちもぽつ/\帰つて行き、割合に近くに住居《すまひ》のあるS君とY君とも、自動車を呼んで、帰る事になつた。
Tと私とは、すつかり皆の帰つて了つた後に、女気なしで寝る蒲団《ふとん》を敷かせた。
二人は何
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