のは必要でもあり、いゝものには違ひないさ。けれども、いつまで、友だちをたよりにしてゐるのは愚だよ。僕たちは一人で、下らない友情なぞに煩はされずに、生きてゆかなくちやならないんだ。それあ友だちがなければ、ほんとに淋しいと思ふこともあるさ。僕だつてSやなんか白樺《しらかば》の連中と別れた時は、堪らない位淋しかつたもんだ。然《しか》しその位の事に堪へられない位ぢや、迚《とて》もいゝ作家になれないと思つたから、歯を喰ひしばつて我慢した。そしたらいつの間にか馴《な》れて了つて、今では却つてサバ/\したいゝ気持だ。――君も僕の見る所では、どうも今の仲間と離れた方が、君のためにいゝやうだよ。君はあの人たちのやうに、小利口に世間を立ち廻つて、破綻《はたん》のない生活を送れる人とは違ふんだ。三十にならぬ若い身空で、細君を貰《もら》つてすつかり家に収まつたり、巧みに創作の調節を取つて、確乎《しつかり》と文壇の地位を高めて行くと云つたやうな、さう云ふ甲斐性《かひしやう》のある人間ぢやないんだ。君はあの人たちと異《ちが》つて、もつと出鱈目《でたらめ》な、もつと脱線的な生活を送るべき人なんだ。人生つてものは、彼
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