附き合ふんなら、向うは離れるだらうつて脅《おど》かされた。」
「誰がそんな事を云ふんだい。」
「さあ、個人的な名を云ふのはよさう。」
「いゝぢやないか。どうせそこまで云つた以上。――Aかい。Eかい。まさかHぢやあるまいね。」
「Hは黙つてゐた。」
「するとAたちだね。」何故《なぜ》かTは追究して来た。私は「うむ。」と云はざるを得なかつた。
「悪友か。悪友、結構だ。君には悪友が必要なんだよ。投書家さへいつかの論文に、君には悪に穢《けが》れた手と、泥に塗《まみ》れた足が必要だと云つてたぢやないか。一体Aたちにした所が、Kを一人前に人間にして下すつて有難うつて、俺たち悪友どもに向つて感謝すべきなんだ。」Tはさすがに少し気持を悪くしたらしく、それを消すためにそんな事を云つてゐた。
「一体今の文壇には悪友がなさ過ぎるよ。」Y君も相槌《あひづち》を打つた。
 するとS君は膝《ひざ》を乗り出すやうにして、こんな事を云ひ出した。
「K君、僕はいつかつから、君に云はう/\と思つてたんだが、向うが離れるといふんなら、丁度いゝ。これを機会に、君の周囲の連中と、すつかり離れて見たらどうだい。それあ友人といふも
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