二三杯の酒と共に、落着いて話が出来るやうになつた。
「E軒か。さうと知つたら早く電話をかけるんだつた。E軒で何をしてゐたんだ。」
「不愉快な目に会つたよ。」私はわざと投げ出すやうに云つた。
「不愉快な目つてどうしたんだ。」
「なあに実はね。今日僕たち仲間だけの三土会と云ふ会があるつて云ふんで、久しぶりで連中の顔でも見ようと思つて、出かけて行つた所が、ふとした事から僕の遊蕩が問題になつてね、皆から口を揃へて忠告やらを受けた訳さ。余り癪に触つたから、つい其足で飛び出して来たんだ。そしたら此処でかう云ふ始末なんだ。天網恢々《てんまうくわい/\》粗にして洩《も》らさず。――僕はほんとに嬉しくなつちまつた!」
「棄てる神あれば拾う人間[#「人間」に傍点]あり、さ。だから人間会が必要なんだよ。」とY君は自分の諧謔《かいぎやく》に、自ら満足して又|哄笑《こうせう》した。
「で、どんな忠告を受けたんだい。」とTは黙して置けぬと云ふ風に、真面目《まじめ》になつて訊《たづ》ね出した。
「要するに、君たちが悪友なのさ。」
「それで俺達と附き合ふのが不可《いけ》ないとでも云ふのかい。」
「まあさうだ。君たちと
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