ねえ。」
「けれども君自身に取つても、随分淋しい事だらうと思ふよ。君はそんな生活をしてゐて、朝眼がさめる時などに、堪らない空虚を感じないかい。」
「それはこんな生活をしなくたつて、僕は感じてゐるよ。寧《むし》ろ此頃の方が感じない位だ。」
「では、君はあの生活に満足してゐるのかい。」今度はEが口を出した。彼が口を出すことは、此の私を非難するAの管絃楽の中へ、更に喇叭《らつぱ》を交へるやうに強く響いた。
「満足してゐる訳ではないが、楽しんではゐる。僕は一般の遊蕩児の様に、楽しくもないのに、止むを得ず行《や》つてゐるといふやうなんぢやない。実際僕は楽しいんだ。」
「そんなら猶《なほ》悪いよ。そんな態度は享楽主義も初期ぢやないか。」
「さう云はれても仕方がない。」私はその享楽主義の初期と云ふ適評が、聴いてゐた他の人々に、起さした一種の微笑に対して腹を立て乍ら云ひ切つた。
「兎に角何だね。」又Aが追究して来た。「Hも其点を心配してるんだが、君はそんな生活をしてゐると文壇的に損だと云ふ事も考へなくちやならんね。」
「文壇的に損をすると云ふのは、人気を落すとでも云ふ意味かい。」
「まあさうだ。」
「
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