や僕自身のために君が遊蕩をやめて呉れたらいゝと思つてるんだ。君があの連中と一緒に遊び廻つてゐて、いつ行つてもゐないのみか自ら書かないやうにでもなると、僕は非常に淋《さび》しい気がするんだ。君がいつ行つてみても、あの机の前に坐つてゐて、猛然と書いてゐて呉れると、僕はどんなに心強いか、どんなに刺戟を受けるか知れないんだ。僕は君の荒《すさ》む事が、君自身に取つてよりも僕自身に取つて淋しいんだ。」
Aは更に得意の理論を以て、明快に論歩を進めて来た。私は彼の言葉に対して、何とも反駁《はんばく》のしやうのないのを感じた。が、これだけ整然と、合理的に説かれ乍ら、私は更に彼の態度に、反感の起るのを禁じ得なかつた。なあにAは彼自身、良友ぶつて忠告をしたいのに、彼自身の聡明《そうめい》さが、それを自身で知つてゐるために、わざと此忠告は此方《こつち》の為でなく、彼自身のためだと云つてゐるのだ。そして其実、彼自身の優越から来る、一種忠告慾に駆られてゐるのだ。――とかう裏の裏を見ずにゐられなかつた。かう僻《ひが》んで来ると、私はもう素直な答へが出来なかつた。
「併し僕は君らのために、生活してゐるんぢやないから
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