廻し、それから心持|昂揚《かうやう》した声でかう云つた。
「では初め鳥と獣を眠らしてお目にかけませうか。私はこれを禽獣《きんじう》降神術と名附けてゐるんです。」
「生憎《あいにく》鳥も獣も此処にゐないぢやないか。」と重役が云つた。
「其用意はちやんとして来ました。」と云つて彼は女給を顧み乍ら、「姉さん。済みませんが入口に置いてある箱を持つて来て下さい。」
小さな檻《をり》が運ばれて来た。それには兎と※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]とが入れてあつた。
「皆さん。御覧の通りこれは私が今日通りがゝりの鳥屋から借りて来た正真正銘の兎です。」とかう彼は慣習になつた口上めいた事を云つて、四周《あたり》の人たちをずつと見渡した。彼の後ろのみかど座へ通ずる出入口には、暇になつた案内女たちが二三人、青い服を着て微笑《ほゝゑ》み乍ら見てゐた。手品師は時々その方をちらりと見捨てた。
「では一ツこれを眠らして御覧に入れませう。」彼は又かう繰り返して、兎をそこの卓上に置いた。白い兎は今迄押へられてゐた耳を一ふり二ふり振つて、まだ自分の今の位置を自覚してゐないかのやうに赤い目をきよと/\させた。
手
前へ
次へ
全18ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
久米 正雄 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング