手品師
久米正雄
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)霽《は》れ上つた
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)必要上|此処《こゝ》に入つて匿名で
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「奚+隹」、第3水準1−93−66]
/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)さう/\
*濁点付きの二倍の踊り字は「/″\」
−−
浅草公園で二三の興行物を経営してゐる株式会社『月世界』の事務所には、専務取締役の重役がいつもの通り午前十時十五分前に晴々しい顔をして出て来た。美しく霽《は》れ上つた秋の朝で、窓から覗《のぞ》くと隣りのみかど座の前にはもう二十人近くの見物人が開館を待つてゐる。重役はずつとそれらを見渡して、満足さうに空を仰いだ。すぐ前にキネマ館が白い壁を聳《そばだ》ててゐるので、夜前の雨に拭《ぬぐ》はれ切つた空が、狭く細い一部分しか見えない。併《しか》し重役はそこから輝き落ちる青藍の光芒《くわうばう》をぢつと見
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