》しいものを入れて下すつたんで困りましたよ。どうです、少しは当りましたか。」
 彼は機嫌《きげん》をとるやうに事務員の方を向いてさう云ひ乍ら封印を切つた。中からは巻尺がもとのまゝで出て来た。
「なるほど。」重役は感心した。
「あゝものさしですね。だうりで測り兼ねましたよ。」と手品師はその洒落《しやれ》が云ひたいのでわざと当てなかつたのだと思はれる位、流暢《りうちやう》に云つた。皆は又一しきり哄笑した。彼は益※[#二の字点、1−2−22]得意になつて云ひ続けた。
「では一つ皆さんのはつ[#「はつ」に傍点]と思ふ奴をお目にかけませう。千里眼なぞは実は函を受取る時に音を聞いたり、そつと見たりするのですが、これこそほんとの手練です。どこか此処に大根は売つてゐないでせうか。」
「おひさちやん、おまへ買つておいで。」と事務員が受付の女に命じた。
「だつて昼日中大根をさげて歩くのは可笑《をか》しいわ。」女が快活に笑つた。
「まんざらさうでもあるまいぜ。今からその位の世話女房の練習はして置くさ。」
「女房に仕手《して》なんぞありやしなくてよ。」
「ぢや私がなりませうか。」手品師が口を出した。女はひよい
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