もう首をだらりと伸ばしたまゝ横になつて了つた。
それから彼は一つの手函《てばこ》を持ち出した。それは方一尺あるかない小さな桐《きり》の白木で出来てゐて、厭に威嚇するやうな銀色の大きい錠が下りてゐる。彼はそれをぽん/\と叩《たゝ》いて見せて、
「さあこれは御覧の通り、種も仕掛もない函です。どなたかこれに何ぞお入れ下さい。私が透視してお眼にかけます。」
一人の事務員が面白がつてそれを室の隅へ持つて来た。そしてポケットから恰度《ちやうど》其日用があつて入れて置いた巻尺を取り出して入れた。
手品師はそれを受取ると五尺ほどの足のついた台上に置いて、自らは蝋燭《らふそく》を点《とも》し、箱の上下左右を照して、暫《しばら》くはぢつと目を瞑《つぶ》つた。
事務員たちは手品師の困惑してゐるらしい態《さま》を見て、幾分か嬉しい気分になつて私語《さゝや》き合つた。
「これは世の常の物ぢやありませんね。」やゝあつて手品師は云つた。「長さから云へば四五尺で細長い紐《ひも》のやうなものです。そして何だか蛇のやうにとぐろを巻いて居ります。それから小さな金具が着いてゐますね。どうもお意地がわるく|六ヶ《むづか
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