Rに曝された。多くの人はパンを得るために働こうと申し出たが、徒労に終った。頑健な男でさえ一日たっぷり働いて二ペンス貰って大喜びであった。一七八二年と一七八三年にも大きな災厄が生じたが、しかし死者はなかった。この筆者は曰く、『もしこの危機にアメリカ戦争が終熄しなかったならば、もし海軍のために備えられた特に豌豆《えんどう》の有り余る貯蔵が売りに出されなかったならば、我国にはいかなる荒廃と恐怖の光景が展開されたことであろう。』
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1)[#「1)」は縦中横] Parish of Duthil, vol. iv. p. 308.
2)[#「2)」は縦中横] Vol. vi. p. 121.
〔訳註〕これらの『十六世紀』とあるのは、おそらくいずれも『十七世紀』の誤りであろう。
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これと同様な多くの叙述は、『統計報告』の各所に現われているが、欠乏により時々生ずる惨情の性質と程度を示すには以上で十分であろう。
一七八三年にはハイランド地方のある地方に人口減退が起り、そしてこれが、この地方で住民の数がウェブスタ博士の調査以後減少している理由であると云われている。たいていの小農業者は一般に、当然予期される如く、凶作のために絶対的に没落してしまった。ハイランド地方のこの種の人々は、当てにならぬ生計の資を求めて、普通労働者としてロウランド地方に移住せざるを得なかった1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。ある教区では、この前の調査の時にも、この凶年時における農業者没落の結果は、彼らの窮迫した状態と、その必然的結果たる一般民の貧困と窮乏の増大の裡に、なお看取し得るところであった。
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1)[#「1)」は縦中横] Parish of Kincardine, County of Ross, vol. viii. p. 505.
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バンフ郡グレインジ教区に関する報告1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]には、一七八三年には緑肥による一切の改良は中止され、農業者は穀物を栽培すること以外には何も考えなかった、とある。借地人は大部分没落した。これより以前には肺病はその後ほどは多くなかった。これは、一七八三年の凶作と粗悪な食物に、並びに一七八二年及び一七八七年の長期の不作に帰して間違いないのであり、――この両年とも労働者は収穫の続く三箇月の間ひどい寒さと湿気とに曝された――しかし主としては、下層階級の生活様式に生じた変化に帰すべきなのである。従来は一家の主人は誰でも弱麦酒の一杯も飲めたし、また時々は自分のささやかな畜群の中から羊の一匹も殺すことは出来たが、今では事情は一変している。貧民の間にしばしば見られる生活必需品の欠乏、彼らの湿っぽくて臭い家屋、及び中流階級の間の憂鬱は、この教区に疾病と死亡が多い主たる原因であるように思われる。若い者は肺病で、年寄は水腫と神経性熱病で、斃れているのである。
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1)[#「1)」は縦中横] Vol. ix. p. 550.
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この教区の状態は、他に似ているものもあるけれども、蘇格蘭《スコットランド》の平均的状態の例外と考え得ようが、これは疑いもなく借地人の没落によって生じたものである。かかる結果は驚くに当らないが、けだし農業用の家畜と資本の喪失以上の害悪は一国に容易に起り得るものではないからである。
吾々は、この教区の疾病は、一七八三年の不作と粗食の結果として増加したと云われていることを、述べておこう。同一の事情は他の多くの教区でも指摘されており、そして、絶対的の飢饉で死ぬものはほとんどないけれども、致命的な疾病がほとんど常に伴生するものである、と云われている。
ある教区では、出生及び結婚の数は、年の豊凶によって影響されるとも云われている。
ロス郡のディングウォール教区1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]では、一七八三年の不作後は、出生は平均より一六少く、最近の最低数より一四少かった。一七八七年は豊年であった。そして翌年には出生が同様の比率で増加し、そして平均以上一七であり、他の年の最高数以上一一であった。
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1)[#「1)」は縦中横] Vol. iii. p. 1.
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オークネイのダンロスネスに関する報告1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]では、筆者は、年結婚数は季節に依存すること大であると云っている。豊年にはそれは三〇またはそれ以上に上るが、しかし不作の場合にはその半数にも達しないであろう。
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1)[#「1)」は縦中横] Vol. vii. p. 391.
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一七五五年におけるウェブスタ博士の調査の時以来の蘇格蘭《スコットランド》の人口増加の総数は、約二六〇、〇〇〇であり1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、それに対しては、それに比例する食物が、農工業の状態の改良と馬鈴薯耕作の増大とによって、作り出された。この馬鈴薯はある地方では一般人の食事の三分の二を占めている。蘇格蘭《スコットランド》の出生超過の半ばは移民として出ていくと計算されている。この流出が著しく国の負担を減らし、残留者の境遇を改善する傾向のあることは、疑い得ない。蘇格蘭《スコットランド》はそれでも確かに人口過剰であるが、しかし人口がもっと少かった一世紀ないし半世紀以前ほどには過剰でない。
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1)[#「1)」は縦中横] 一八〇〇年の人口実測の報告によれば、蘇格蘭《スコットランド》の総人口は約一、五九〇、〇〇〇であり、従ってこの時までの増加は三二〇、〇〇〇以上であった。一八一〇年には人口は一、八〇五、六八八であり、一八二〇年には二、九〇三、四五六であった。(訳註――この註は第五版及び第六版において訂正加筆さる。)
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愛蘭《アイルランド》の人口の詳細についてはほとんど知られていない。従って私はただ、馬鈴薯の使用の拡大によって、前世紀中にその人口が極めて急速に増加したと云うに止めることとする。しかしこの栄養ある食物が低廉であり、またこの種の耕作をする時には平年にはわずかな土地で一家を支える食物を得られるという事情は、人民の無智と低劣な境遇――そのために彼らは目先の単なる生存が出来るという見込だけで結婚してしまうのであるが――と相俟って、この国の産業と現在の資源が許す以上に人口を増加せしめるほどに結婚を奨励する結果となっている。そしてその結果は当然に、下層階級の者は最も貧窮した悲惨な状態にあるということになるのである。人口に対する妨げは云うまでもなく主として積極的なものであり、そして極貧、湿潤な陋屋、粗悪不十分な衣服、及び時折の欠乏から起る疾病によって生ずる。かかる積極的妨げに加うるに、近年は、また内争、内乱、及び戒厳令という罪悪及び窮乏があるのである(訳註)。
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〔訳註〕第二版においてはこの次に一パラグラフあったが第三版以後では削除された。それは次の如くである、――
『以上の概観において、社会に広く存在していることが見られた人口に対する妨げは、明かに、道徳的抑制、罪悪、及び窮乏とすることが出来る。』
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一八二五年(訳註――本章の以下の部分は第六版のみに現わる。)
最近の一八二一年の人口実測によれば、愛蘭《アイルランド》の人口は六、八〇一、八二七であるが、一六九五年にはそれはわずかに一、〇三四、〇〇〇と見積られた。もしこれらの数字が正しいならば、それは、一二五年間を通じて、約四五年ごとに倍加する如き速度で人口が継続的に増加した実例を提供するものであるが、これは、おそらく同じ期間に亙りヨオロッパの他のいかなる国に生じたよりも急速な増加である。
愛蘭《アイルランド》の特有の事情から見て、平均死亡率、及び出生、結婚の人口に対する比率を知るのは極めて興味あることであろう。しかし不幸にして、何らの正確な教区記録簿もつけてなく、従ってこれらのことはいかに望ましくも手に入れることが出来ないのである。
[#改丁]
第十一章 結婚の出産性について(訳註)
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〔訳註〕本章は、第二版では、ロシアを論じた章の次の第四章となっており、主としてロシアと関係あるものであったが、第三版から書き改められて、この場所に移された。第二版の訳文は本章の終りの方に載せる。
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各国の出生、死亡、及び結婚の記録簿、並びに実際人口と増加率とから、結婚の現実の出産力、及び結婚まで生存する産児の真の比率を、演繹し得ることが、極めて望ましいであろう。この問題はおそらく正確な解決を与え得ないかもしれないが、しかし吾々は、次の如き考察に留意するならば、幾分か正確な解決に近づき、そして多くの記録簿に現われている困難の若干を説明することが出来るであろう。
しかしながら、たいていの国の記録簿では、出生及び死亡の脱漏の方が結婚の脱漏より多いと信ずべき理由があり、従って結婚の比率はほとんど常に過大になっているということを、前提しなければならぬ。我国で最近行われた人口実測では、結婚の記録はほとんど正確と考えて差支えないのに、出生及び死亡には非常に大きな脱漏のあることは確実に知られている。そしておそらく同様な脱漏は、程度はおそらく同一ではなかろうが、他の諸国一般にもあることであろう。
もし吾々が(訳註)人口は停止的であり、移民の出入も私生児もなく、出生、死亡、及び結婚の記録簿が正確であり、かつ引続き常に人口に対して同一の比率を採るところの、一国を、想定するならば、年出生の年結婚に対する比率は、再婚及び三婚をも含んでの各結婚当りの産児数を現わすこととなり、また再婚及び三婚について訂正を加えるならば、それはまたしばしば結婚まで生存する産児の比率をも現わすであろうが、他方年死亡率は正確に平均寿命を現わすであろう。
[#ここから2字下げ]
〔訳註〕このパラグラフを含んで以下三パラグラフは第六版のみに現わる。
[#ここで字下げ終わり]
しかしもし人口が増加か減少かしつつあり、また出生、死亡、結婚が同一率で増加または減少しつつあるならば、かかる運動は必然的に一切の比率を攪乱するであろうが、けだし、記録簿では時を同うする出来事も自然の順序では時を同うするものでなく、そして増加または減少がその間に起りつつあるに違いないからである。
第一に、ある年の出生は、自然の順序では、時を同うする結婚から生ずるものではあり得ず、主としてそれよりも前の年の結婚から生ずるものでなければならない。
では、再婚及び三婚を含む任意に選んだ結婚の出産性を断定するために、ある国の記録簿の一定期間(例えば三〇年)を切り離し、この切り離された期間に含まれる一切の結婚によって生れた出生を、調べてみよう。この期間の初期の結婚が、この期間に含まれない結婚から生ずる多数の出生と併置され、またその終期には、この期間に含まれる結婚から生れた出生が、その次の期間の結婚と併置されることは、明かである。さて、もし吾々が前者の数を控除し、後者を加算することが出来るならば、吾々はこの期間の結婚によって生れた一切の出生を正確に知り、そしてもちろんかくの如き結婚の真の出産性を知ることが出来るであろう。もし人口が停止的であるならば、加算すべき出生数が控除すべき出生数と正確に同数であり、記録簿に見られる出生の結婚に対する比率は正確に結婚の出産性を表わすであろう。しかし人口が増加か減少かしつつあるならば、加算せらるべき数は控除せらるべき数と決して同数でなく、そして記録簿の出生の結婚に対する比率は、決して結婚の出産性を正しく表わさないであろう。人口が増加しつつある場合には、加算せらるべき数は明かに控除せらるべき数より大であり、そして云うまでもなく記録簿に現われた出生の結婚
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