Aこれら教区の死亡率はわずかに五六分の一であり、出生率は四四分の一であることがわかるであろう。しかし、これらの比率は極めて異常であり、従ってそれが真に近いと考えることは困難である。これをウィルキイ氏の計算と一緒にしてみて、蘇格蘭《スコットランド》における死亡と出生の比率が、英蘭《イングランド》及びウェイルズにつき認められている比率よりも小さいということは、ありそうなこととは思われない。すなわち後者では死亡は四〇分の一、出生は三〇分の一であり、そして出生の死亡に対する比率は、一般に四対三であると認められているように思われる3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] Population Abstracts, Parish Registers, p. 459.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 458.
 3)[#「3)」は縦中横] Statistical Account of Scotland, vol. xxi. p. 383. ここに記した英蘭《イングランド》との比較は、第一囘人口実測の当時に関するものである。一八〇〇年以来|蘇格蘭《スコットランド》の死亡率が低減し出生の死亡に対する比率が増大したことは、ほとんど疑いがない。(訳註――この註の文章の部分すなわち『ここに記した』云々以下は、第六版より現わる。)
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 結婚については、推説を下すことは更にいっそう困難であろう。それは極めて不規則に記録されているので、従って、『人口摘要』にはそれについて何の報告も載っていない。私は、『統計報告』Statistical Account からすれば、蘇格蘭《スコットランド》における結婚への傾向は、大体において、英蘭《イングランド》より大きいものと考えるべきであったであろう。しかしこれら両国において、出生及び死亡が、相互に、また総人口に対し、同一の比率を保つ、ということが真実であるならば、結婚比率は著しく相違しているはずはない。しかしながら、予防的妨げの作用がこれら両国において全く等しく、気候の健康度も等しい、と仮定すれば、蘇格蘭《スコットランド》は英蘭《イングランド》よりも都市や工場が少いので、蘇格蘭《スコットランド》では、英蘭《イングランド》と同一の死亡率が生ずるに先立って、まずより[#「より」に傍点]大なる程度の欠乏と貧困とが起るであろうということを、注意しなければならぬ。
 統計報告を概観すると、蘇格蘭《スコットランド》における下層階級の境遇は、近年著しく改善されてきていることが、明かに看取される。食料品の価格は騰貴したが、しかしほとんど常に労働の価格はそれ以上の比率で騰貴した。そしてたいていの教区においては、一般人の間で肉が以前よりも多く消費され、住居や衣服もよくなり、そして清潔に関する彼らの習慣が決定的に向上している、と云われている。
 この改善の一部分は、おそらく、予防的妨げの増加に帰せらるべきであろう。若干の教区では、晩婚の習慣が指摘されており、そしてこの習慣が指摘されていない多くの場所でも、出生や結婚の比率、その他の事情から、それが行われているものと推論して差支えなかろう。エルジン教区に関する報告の筆者は1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、蘇格蘭《スコットランド》における人口減少の一般的原因を列挙するに当って、農場の合併によって結婚が阻害され、またその結果として、あらゆる階級及び種類の働き盛りの若者が移住し、再び帰郷するものはほとんどない事実を語っている。彼が述べているもう一つの結婚阻害の原因は、奢侈であり、彼によれば、少くとも人々は年齢が進むまでこのため結婚しないので、生れる子供は虚弱である。『かくしてあらゆる種類のいかに多くの男子が独身生活を送ることか。またあらゆる階級のいかに多くの女子が結婚せずに終ることか。彼らは今世紀の始めには、または一七四五年のおそきですら、数多い健康な子供達の親となっていたはずのものである、』と。
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 1)[#「1)」は縦中横] Vol. v. p. 1.
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 より[#「より」に傍点]少い人手しか必要としない牧畜法や改良農法の採用によって、人口がむしろ減少した地方で、こうした結果は主として起ったのである。そして、前世紀の終りまたは今世紀の始め以来の人口の減少が、その各時期における出生率で推算されているのは、特にスイスやフランスについて注意した誤りに陥ったものであり、その結果として人口の相違は実際よりも大きくなったことを、私はほとんど疑わないのである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] ある筆者はこの事情に着目し、そして、従前は出生は総人口に対して、現在よりも大きな比率を保っていたように思われる、と述べている。彼は曰う、おそらくより[#「より」に傍点]多くのものが生れたし、またより[#「より」に傍点]大なる死亡率があったのであろう、と。Parish of Montquitter, vol. vi. p. 121.
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 この問題について私が種々の報告からして下すべき一般的推論は、結婚が以前よりも晩婚になったということである。しかし、若干の明白な例外もある。工業が導入された教区では、子供が六、七歳になればすぐ職業が得られるので、早婚の習慣が当然に伴生する。そしてこの工業が引続き繁栄し増大する間は、それから生ずる害悪はそれほどは目につかない。もっとも人道の士たるものは、それがそれほど目につかない理由の一つは、かかる職業につく子供の間に生ずる不自然な死亡率によって新家族を容れる余地が作り出されることにあることを、嘆息しつつ告白せざるを得ないのである。
 しかしながら、蘇格蘭《スコットランド》の他の地方、特に西部諸島及びハイランド地方の若干部分では、財産の再分により人口は著しく増加し、またおそらく――工業の導入によるものではないが――以前よりも早婚になっているかもしれぬ。ここではそれに伴う貧困は明瞭すぎるほど明瞭である。シェットランドのデルティングに関する報告には1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、人々は非常に早婚であり、また出来るだけ多くの人間をその土地に有って鱈漁をやりたい地主は、早婚を奨励しているが、しかし彼らは一般に借金と大家族に悩んでいる、と書いてある。筆者は更に、以前にはこの地方に地方条令と呼ぶある古法があり、その一つには、何人も自己の自由になる四〇|磅《ポンド》を有たなければ結婚してはならぬ、と定められていた、と云っている。この法律は今は行われていない。これらの法律はメアリ女王またはジェイムズ六世の治世に、蘇格蘭《スコットランド》議会の承諾と確認を受けたと云われている。
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 1)[#「1)」は縦中横] Vol. i. p. 385.
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 シェットランドのブレッセイ・ビュラ及びクウォルフに関する報告には1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、農場は極めて小さく、また鋤を有つものはほとんどない、と書いてある。土地保有者の目的は、自分の土地に出来るだけ多数の漁夫をもつことであり、この事実は農業の改良に対する大きな障害である。彼らの漁撈はその主人のためのものであり、主人は彼らに全く不十分な手間賃を支払うか、または魚を低率で買取るかである。この筆者は曰く、『たいていの地方では、人口増加は利益と考えられているが、これは正当である。しかしながらシェットランドの現状では反対である。農場は細分されている。若者は何らの資財もなく結婚を奨励されている。その結果は貧困と窮迫である。現在これら諸島には、それが適当に養い得る人数の二倍がいると信ぜられている。』
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 1)[#「1)」は縦中横] Vol. x. p. 194.
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 ファイフ郡のアウホテルデランに関する報告の筆者1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]は、労働者の食物は乏しくて不断の苛酷な労働がその体躯に与える結果に抗することが出来ず、そのためその身体は自然の指示する時期以前に衰耗してしまう、と云い、更に附言して曰く、『人口が引続き自発的に、結婚によってかかる辛い境遇に入り込むということは、両性の結合と独立の愛とが、いかに人類天性の原則であるかを示すものである、』と。この言葉の中で、独立の愛というのは子孫の愛と変えた方がおそらく適当であろう。
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 1)[#「1)」は縦中横] Vol. i. p. 449.
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 ジュラ島は1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、不断の数多くの移住にもかかわらず、絶対的に住民が過剰であるように思われる。時には一つの農場に五六十人もいる。筆者は、かかる住民の大群は、工業やその他の産業が知られていない場所では、地主に対する極めて大きな負荷であり、国家にとり無用のものである、と云っている。
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 1)[#「1)」は縦中横] Vol. xii. p. 317.
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 もう一人の筆者は1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、一七七〇年のアメリカ行大移民と、最近の戦争中の多数の若者の喪失にもかかわらず、人口が急速に増加したことに、驚いている。彼はその適当な原因を挙げるのは困難であると考え、そして、もし人口がこのように増加し続けるならば、ある仕事が人々に見出されぬ限り、この地方はまもなく彼らを養い得なくなるであろう、と述べている。またカランダア教区に関する報告では2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]、筆者は、この地の村々や、同様の状態にある他の村々は、裸体の飢に瀕している多数の人民で充ち満ちており、彼らは家とパンを求めて続々と溢れ出ている、と云い、また、ある町または村の人口がその住民の産業を超過するに至る時には、常に、その瞬間からその土地は衰弱しなければならぬ、と云っている。
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 1)[#「1)」は縦中横] Parish of Lochalsh, County of Ross, vol. xi. p. 422.
 2)[#「2)」は縦中横] Vol. xi. p. 574.
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 急速な人口増加の傾向を極めてよく示す一例が、エルジン郡のデュウシル教区1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]の記録簿に表われている。そして、重複の誤りは脱漏の誤りよりもおそらく少いのであるから、これは注意に価するように思われる。年出生の総人口に対する比率は一対一二であり、結婚のそれは一対五五、死亡のそれは同率である。出生の死亡に対する比率は七〇対一五、すなわち四・三分の二対一である。死亡の誤りは脱漏の側にあるように思われるから、吾々は死亡数に関して若干の不正確を想定してよかろうが、しかし総人口の三分の一に上る極めて異常な年出生率はそれほど誤っているとは思えず、そしてこの教区に関する他の事情は、この記述を確証する傾向がある。八三〇の人口のうちわずかに独身者三人に過ぎず、そして一結婚当り七人の子供が生れている。しかもそれにもかかわらず、人口は一七四五年以来大いに減少していると想像されている。従ってかかる過度の人口増加の傾向は、過度の移住の傾向によって惹起されたものであることがわかる。筆者は非常に大きな移住のことを述べており、相当程度の生活愉楽品を享受している全種族が、単なる出来心や、また自己の主人となり自作人となるという空想から、蘇格蘭《スコットランド》各所より近年移住していると述べている。
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 1)[#「1)」は縦中横] Vol. iv. p. 308.
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 明かに移住の習慣により惹起されたかかる異常な出生率は、単にその人民の一部を除去するだけで一国の人口を減少するこ
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