O版より現わる。)
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 多くの識者は、この問題や、兵役編入に関する新規定、及び何をおいても人口増加を奨励せんとするデンマアク王室の明白な意図から、おそらく生ずべき結果について、憂慮の念を表わしている。ノルウェイでは、一七八五年以来、非常な不作は起ったことはない。しかし、もし不作が起れば、最近人口が急激に増加しているから非常に甚だしい困窮を来すであろうと憂慮されている(訳註)。
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〔訳註〕このパラグラフの最後の部分は第二版では用語が若干異っている。
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 ノルウェイは、思うに、旅行者が過剰人口に関する憂慮の声を聞き、またこの原因による下層階級の幸福に対する危険がある程度まで看取され了解されている、ヨーロッパ中唯一の国である。これは明かに、全体としての人口が小であり、その結果として問題が狭小なることによるものである。もし吾々の注意が一教区に限られ、そしてそこから移住する力が何もないとすれば、最も不注意な観察者といえども、すべての人が二十歳で結婚すれば、いかに農業者が注意深く土地を改良しようとも、成長してくるものに職業と食物を見出すことの全然不可能なるを、必ずや看取するであろう。しかし人口稠密な国で多数のかかる教区をひとまとめにされると、問題が広くなり、また人の移住する力があるので、吾々の観察は曖昧にされ混乱させられる。吾々は以前には全く明かにわかった真理を見失ってしまう。そして極めて不合理にも、国土の全体は、その各部分の合計とは比較にならぬほどの、人口支持力を有つものの如く、考えてしまうのである。
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    第二章 スウェーデンにおける人口に対する妨げについて

 スウェーデンは、多くの点において、ノルウェイと類似した状態にある。その人口の中《うち》非常に多くのものが、同一の仕方で農業に従事している。そして国内の大部分では、農業者のために働く既婚の労働者は、ノルウェイの家人《ハウスマン》と同様に、若干の土地を有ってこれで主として生計の資に当てているが、他方、未婚の若い男女は、農業者の家庭で使用人として暮している。しかしながらこうした事態はノルウェイほど完全でも一般的でもない。そしてこの理由と、更にまた国の面積と人口がより[#「より」に傍点]大であり、都市の大きさも職業の種類もより[#「より」に傍点]大であるため、人口に対する予防的妨げはノルウェイと同程度には行われておらず、その結果として、積極[#「積極」に傍点]的妨げがより有力に作用しており、すなわち死亡率がより[#「より」に傍点]大である。
 ワルゲンティン氏が『ストックホルム王立学士院記録梗概』〔Me'moires abre'ge's de l'Acade'mie Royale des Sciences de Stockholm〕 で発表した論文1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]によれば、一六六三年に終る九年間の全スウェーデンの年平均死亡率は、総人口に対し、一対三四・四分の三であった2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。ワルゲンティン氏は、この表の続きをプライス博士に提供したが、その二十一年間の平均は、これとほとんど同一の、一対三四・五分の三という結果を示している3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。これは疑いもなく、スウェーデンの人口の中《うち》非常に多くが農業に従事していることを考えると、非常に大きな死亡率である。カンツレエルのスウェーデンに関する記述にある若干の計算から見ると、都市人口の農村人口に対する比はわずかに一対一三に過ぎない4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]。しかるに人口稠密な国では、この比率はしばしば一対三またはそれ以上である5)[#「5)」は縦中横、行右小書き]。従って都市の高い死亡率は、スウェーデンにおいては、一般死亡率に著しい影響を与え得ないのである。
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 1)[#「1)」は縦中横] Vol. i. 4to. printed at Paris, 1772.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 27.
 3)[#「3)」は縦中横] Price's Observ. on Revers. Paym. vol. ii. p. 126, 4th edit.
 4)[#「4)」は縦中横] 〔Me'moires pour servir a` la connaissance des affaires politiques et e'conomique du Royaume de Sue`de, 4to. 1776, ch. vi. p. 187.〕 この著作はその内容がきわめて正確なものと考えられており、ストックホルムでは多大の信用を博している。
 5)[#「5)」は縦中横] 〔Sussmilch's Go:ttliche Ordnung, vol. i. c. ii. sect. xxxiv. edit. 1798.〕
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 ジュウスミルヒによれば、農村の平均死亡率は四十分の一である1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。プロシア及びポメラニアには多数の不健康な大都市があり、また都市人口の農村人口に対する比は一対四であるが、死亡率は三十七分の一以下である2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。ノルウェイの死亡率は、前に述べた如くに、四十八分の一であり、これは、ノルウェイでは、都市人口が農村人口に対する比が、スウェーデンにおけるより大であるのに3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]、スウェーデンに比べると異常に低い率である。なるほどスウェーデンの都市はノルウェイよりも大きくまた不健康であるが、しかしこの国が自然的に人間の寿命により[#「より」に傍点]不利であると考えるべき理由はない。ノルウェイの山地は一般に住めない。国内で人が住んでいる唯一の地方は渓谷である。これらの渓谷の多くは、山間の深く狭い割れ目であり、そして谷底の耕地は、物凄く高いほとんど垂直の絶壁で囲まれ4)[#「4)」は縦中横、行右小書き]、これは長時間太陽光線を遮るので、スウェーデンのもっと広濶《こうかつ》な乾燥している土地ほど健康に適するとは思われないのである。
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 1)[#「1)」は縦中横] 〔Sussmilch's Go:ttliche Ordnung, vol. i. c. ii. sect. xxxv. p. 91.〕
 2)[#「2)」は縦中横] Id. vol. iii. p. 60.
 3)[#「3)」は縦中横] 〔Thaarup's Statistik der Da:nischen Monarchie, vol. ii. tab. ii. p. 5, 1765.〕
 4)[#「4)」は縦中横] これらの渓谷のあるものは絵のような絶景である。クリスチアニアからドロンタイムに至る幹道は、ほとんど一八〇英|哩《マイル》の間、この種の延々たる渓谷を縫い、清冽な流れに沿っており、この流れはある所で大きなミオーゼン湖となっている。私は、ヨオロッパ中のどんな河でも、かかる美しい夢のような光景を後から後からと示しているものはない、と信ずる。この流れは土地を異にするにつれて名称を異にしている。ノルウェイの渓谷の新緑は特殊な柔味があり、木々の枝葉は生い繁り、夏には北方の気候の俤《おもかげ》は更にない。
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 従って、スウェーデンの死亡率を説明するためには、人民の習慣と、国民の増加を求める政府の不断の希求とが、人口を生活資料の限界に余りに緊密に圧迫する傾向があり、従って貧困と栄養不良との必然的結果たる疾病を生ずる傾向がある、と想像しなければならぬのであるが、この想像たるや、観察によって全く事実であることがわかるのである。
 スウェーデンは、その人口に対し十分な食物を生産しない。一七六八年ないし一七七二年の計算によれば、その毎年の穀物不足額は四四〇、〇〇〇タンである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。この分量、またはこれに近い分量が、一般に、外国から輸入されているが、その外になお多量の豚肉、バタ、及びチイズが輸入されるのである2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。
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 1)[#「1)」は縦中横] 〔Me'moires du Royaume de Sue`de, table xvii. p. 174.〕
 2)[#「2)」は縦中横] Id. c. vi. p. 198.
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 スウェーデンにおける酒の醸造は四〇〇、〇〇〇タンの穀物を消費するものと推定されている。この醸造が政府により禁ぜられた時には、輸入表には不足額の変化が現れるが1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、しかし周知の如く頻々と起る不作の年の不足を補うためのより[#「より」に傍点]以上の変化は見られない。非常に豊饒な年で、醸造が自由に出来る時には、一般に三八八、〇〇〇タンが輸入されていると云われている2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。従ってスウェーデン人は、最豊作の年の全生産物と、その上にほとんど四〇〇、〇〇〇タンとを消費し、そして最不作の年にはその消費はその収穫不足のほとんど全額だけ減少しなければならぬ、ということになる。人民大衆は非常に貧困であって、ために非常に騰貴した価格ではほとんど同一量の穀物を買うことは出来ない。従って穀物商人に多量に輸入させるに足る刺戟はなく、従って穀物が四分の一または三分の一不足すれば、その結果として労働者は、以前に消費した穀物のほとんど四分の三または三分の二で満足し、足りないところは発明の母たる必要が教える何らかの代用品の使用で補充せざるを得ないのである。私はほとんどと云うが、それはけだし、不作の年には平年よりも輸入がいくらか多くないと考えることは、出来ないからである。ただしカンツレエルの発表した表ではこの種の目につく変化は少しもない。この表によると、最大の輸入が行われたのは一七六八年で、それは穀物五九〇、二六五タンに上っている3)[#「3)」は縦中横、行右小書き]。しかしこの最大の輸入ですら、この国の平均不足額をわずか一五〇、〇〇〇タン超過するに過ぎない。収穫の四分の一または三分の一を補うのに、これが何になろうか。実際全輸入量ですらこの点では問題にならない。
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 1)[#「1)」は縦中横] 〔Me'moires du Royaume de Sue`de, table xlii. p. 418, c. vi. p. 201.〕 私はスウェーデン・タンの容量を正確に見出しえなかった。それは我国の一サックすなわち半クオタアよりやや以下である。
 2)[#「2)」は縦中横] Id. c. vi. p. 201.
 3)[#「3)」は縦中横] Id. p. 418.
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 カンツレエルが執筆した当時には、スウェーデンの人口は約二百五十万であった1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。彼は一人当り穀物四タンと見ている2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。この仮定によれば、スウェーデンの年需要は一千万タンであり、従って四、五十万タンの輸入では、二百五十万ないし三百万タンの不足を補うにはほとんど役に立たないであろう。そしてもし平均輸入との差のみを取るならば、スウェーデン人が不作の年に輸入から受ける助けは極めて小であることがわかるであろう。
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 1)[#「1)」は縦中横] Id. p. 184.
 2)[#「2)」は縦中横] Id. p. 196.
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 かかる事態の結果として、スウェーデンの人口は奇妙にあらゆる季節の変動により影響を受けることになる。そして、スウェーデンの記録簿は、出生、結婚、及び死亡が、収穫の状態に応じて増減することを示すという、ワルゲンティン氏の興味ありかつ教えるところのある記述
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