一―三版ではこの次に飢饉を論ずる一パラグラフがあったが、これは第四版で削除された。それは次の如くである、――
『飢饉は最後の、最も恐るべき、自然の方策であるように思われる。人口増加力は、人間に対し生活資料を生産する土地の力に優越すること極めて大であるから、予防的妨げによって阻止されぬ限り(訳註――この一句は第一版にはない。)、幼死が何らかの形において人類を襲わなければならない。人類の罪悪は活溌有能な人口減退の使臣である。これは破壊の大軍の先駆であり、しばしば自ら恐るべき作業を成就する。しかしそれがこの殲滅戦に失敗した場合には、疾病季や伝染病や流行病や疫病《ペスト》が恐るべき陣列をなして突進し、その数千数万を一掃する。成功がなお不十分の場合には、巨大な不可避的な飢饉が殿軍となって襲来し、力強い一撃をもって人口を世界の食物の水準と一致せしめるのである。』
なお三〇六頁の訳註を参照。
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しからば、人類の歴史を細心に検討するものは、人類が従来存在しまたは現に存在しているあらゆる時代あらゆる国においても次の事実の存在することを、認めざるを得ないのではなかろうか、すなわち、
人口の増加は必然的に生活資料によって制限される。
人口は、有力にして顕著なる妨げによって妨げられない限り、生活資料が増加する時には1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]普く増加する。
これらの妨げ、及び人口を生活資料の水準に抑止する妨げは、道徳的抑制、罪悪、及び窮乏である(訳註1)。
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1)[#「1)」は縦中横] ここに云う生活資料の増加とは、常に、人口の大多数が支配し得る如き増加のことである。しからざればそれは人口増加を奨励する上で何にもならないであろう。(訳註――この註は第五版より現わる。)
〔訳註1〕この三命題は第一版では次の如くなっていた、――
『人口の増加は必然的に生活資料によって制限されること。
『人口は生活資料が増加する時には普く増加すること。及び、
『人口の優勢な力は抑圧され、そして現実の人口は窮乏及び罪悪によって生活資料と等しく保たれるということ。』
なお本訳書第一分冊三四―五頁を参照。
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この第二篇で(訳註)考察した社会状態を第一篇の主題をなしたそれと比較すると、近代ヨオロッパでは、過去の時代や世界の文明の劣れる地方よりも、積極的妨げの行われる程度は少く、予防的妨げの行われる程度は強いことが、わかると思う。
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〔訳註〕このパラグラフ以下は第二版より現わる。
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蒙昧諸民族の人口に対する優越的妨げたる戦争は、最近の不幸な革命戦を含めても、確かに減少している。そして身体の清潔の程度の向上、都市の清掃及び建設法の改善、経済学の知識の進歩によるより[#「より」に傍点]公平な土地生産物の分配が、普及して以来、疫病《ペスト》、激しい疾病、及び飢饉は確かに緩和され、また以前より頻繁でなくなった。
人口に対する予防的妨げについて云えば、そのうち道徳的抑制1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]の部類に属するものは、現在では男子の方では余り行われていないと認めなければならないが、しかし私は、前に考察した国よりも多く行われている、と確信する。そして、近代ヨオロッパにおいては、過去の時代や文明の劣れる国民よりも、女子の遥かに大きな部分がその一生涯のうちの大きな部分を、この徳を実行して送っていることは、ほとんど疑い得ないところである。しかしそれはとにかくとして、もし吾々が、単に、主として、結果に関係なく慎慮的な思慮から結婚を延期するという意味の、一般的名辞のみを考えるならば、これは、かかる見解からして、近代ヨオロッパにおいて人口を生活資料の水準に抑止する妨げのうちで、最も有力なものと考え得よう。
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1)[#「1)」は縦中横] 読者は私がこの語を狭い意味に用いていることを想起せられたい。(訳註――この註は第三版より現わる。ただし第五版に用語上の訂正がある。)
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底本:「各版對照 マルサス 人口論2[#「2」はローマ数字、1−13−22]」春秋社
1949(昭和24)年1月10日初版発行
※「旧字、旧仮名で書かれた作品を、現代表記にあらためる際の作業指針」に基づいて、底本の表記をあらためました。
その際、以下の置き換えをおこないました。
「敢て→あえて 恰かも→あたかも 普く→あまねく 予め→あらかじめ 凡ゆる→あらゆる 或る、或→ある 雖も→いえども 如何→いか 幾何→いくら 聊か→いささか 何れ→いずれ 何時→いつ 一層→いっそう 一杯→いっぱい 苟くも→いやしくも 愈々→いよいよ
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