、第一版のこのパラグラフの後半とその次の一パラグラフとは、第二版で削除された。それは次の如くである、――
『人口に対し与えらるべき奨励ほど普通に耳にすることはない。もし人口増加の傾向が、私が述べたほど大であるならば、それがこれほど要求されているのに実現しないのは奇妙に思われるであろう。その本当の理由は、より[#「より」に傍点]大なる人口に対する要求がそれを養うに必要な基金を準備することなくして行われている、という事実である。耕作を促進して農業労働に対する需要を増大し、従ってそれと共に国の生産物を増加し、そして労働者の境遇を改善すれば、それに比例する人口増加については何の危惧の必要もないのである。何か他の方法でこの目的を実現しようとする企ては、罪悪であり残酷であり圧制的であり、従ってかなりの自由の存するいかなる国においても成功し得ないものである。人口増加を強制し、これによって労働の価格を低め、従ってまた陸海軍費と輸出製造品原価とを低めるのは、一国の支配者と富者の利益であるように思われるかもしれない。しかしあらゆるこの種の企ては、なかんずくそれが慈善という欺瞞的装いのもとに行われ、従って一般人民が快く喜んで受容される可能性のある際には、貧民の友たるものはこれを注意深く監視し執拗に拒否すべきものなのである。
『私は、ピット氏が、その貧民法案の中に、労働者が三人以上も子供を有てばその一人につき一週一シリングを与えるという条項を作った点で、何らかの不正な意図を有っているとは、決して思わない。この法案が議会に提出される前には、またその後もしばらくの間は、かかる法令は極めて便宜なものと考えたことを、私は告白するが、しかしこの問題をもっと考えてみたところ、私は、たとえその目的が貧民の境遇の改善にあるとしても、それはその所期する目的そのものを挫折せしめるべきものである、と信ぜざるを得なくなった。それは私の知る限りでは国の生産物を増加する傾向を何も有たない。そしてもしそれが生産物を増加することなくして人口を増加せしめる傾向があるならば、その必然的不可避的結果として、同一の生産物がより[#「より」に傍点]多数のものに分たれなければならず、その結果として一日の労働はより[#「より」に傍点]少量の食物を購買することとなり、貧民は従って一般により[#「より」に傍点]悲惨な境遇に陥らなければならぬように、思われるのである。』
なおこれ以後の四パラグラフは、大体において第一版を基礎とする。Cf. 1st ed., pp. 135−139.
[#ここで字下げ終わり]
私は、人口が、それに比例する生活資料の増加なくして永続的に増加し得る場合があることを、述べた。しかし、食物とそれにより養われる人口との間の比率の、国を異にするにより生ずる変化には、越し得ない限度があることは、明かである。人口が絶対的に減少しつつはない国においては、すべて、食物は必然的に、労働者階級を扶養し維持するに足るものでなければならない。
他の事情が同一ならば、一国の人口の多寡は、それが生産しまたは獲得し得る人類食物の量に比例し、また幸福の程度は、この食物の分配される量、すなわち一日の労働が購買する量に比例する、と断定し得よう。麦産国は畜産国よりも人口が多く、また米産国は麦産国よりも人口が多い。しかし彼らの幸福は、人口の粗密にも、国の貧富にも、国の新旧にも依存せず、人口と食物とが相互にとる比率に依存するのである。
この比率は一般に、新植民地で最も良いのであるが、そこでは、古国の知識と勤労とが、国の肥沃な無主の土地に充用されるのである。他の場合では、国の新旧はこの点において大きな重要性を有たない。おそらく大英国の食物は、二千年、三千年、または四千年以前よりも、現在の方がより[#「より」に傍点]潤沢にその住民に分配されている。そして、蘇格蘭《スコットランド》のハイランド地方の貧しく人口稀薄な地方は、ヨオロッパの最も人口稠密な地方よりも、過剰人口により[#「より」に傍点]多く悩んでいるのである。
もしある国が、技術のより[#「より」に傍点]進んだ国民によって決して侵略されることなく、それ自身の文明の自然的進歩のままに委ねられるならば、その生産物を一単位と考え得る時から百万単位と考え得る時まで、数千年数万年の間、人民の大衆が、直接にか間接にか、食物の不足に悩まなかったと云い得る時は、ただの一時もないであろう。歴史あって以来、ヨオロッパのあらゆる国では、それに関する記録をはじめてもって以来、幾百幾千万の人類は、――もとよりこれら諸国のあるものではおそらく絶対的の飢饉は一度も起らなかったかもしれぬが、――この単純な原因により抑圧され来っているのである(訳註)。
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〔訳註〕第
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