吾々は、不断の経験から、熱病は、我国の牢獄や、我国の工場や、我国の密集した救貧院や、我国の大都市の狭隘な街路に醸成されることを、知っているが、これらの環境は、いずれも、その結果において極貧に類似するように思われる。そして吾々は、この種の原因が、その程度を悪化し、従前にはヨオロッパに、かくも頻々と生じた疫病《ペスト》の発生と蔓延にあずかって力あったことを疑い得ないのであるが、しかしそれは今日では、これらの原因が緩和されたので、至るところで大いに減少し、また多くの場所では完全に絶滅されたように思われる。
人類に対する他の大きな災厄(訳註)、すなわち飢饉については、人口の増加が絶対的にこれを発生せしめるというのは、事実に反する、と云い得よう。人口の増加は、たとえ急速であっても、必然的に漸進的である。そして人間の体躯は極めて短期間といえども食物なくしては支持し得ないから、これを養うべき食料が存在する以上の人類は成長し得ないことは明かである。しかし人口原理が絶対に飢饉を発生せしめ得るものではないとはいえ、それは飢饉に対する道を準備するものである。そしてしばしば下層階級をして生命を維持すべきほとんど最小量の食物で生活するを余儀なからしめることにより、季節の不良によるちょっとした食物の不足をすら惨憺たる凶饉たらしめるのであり、従って飢饉の主たる原因の一つであると云い得よう。凶饉の接近の前兆として、ショオト博士は、一年または、それ以上続いた豊作を挙げている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。そしておそらくこの説は正しいであろうが、けだし物が安く豊富であれば、一般的に、多数の人の結婚を促す結果となり、そしてかかる事情の下では、平年作の囘起ですらが食物の不足を惹起し得ようからである。
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1)[#「1)」は縦中横] Hist. of Air, Seasons, etc., vol. ii. p. 367.
〔訳註〕飢饉については第一―二版では本章の終末近くにこれと異る内容の一パラグラフがあった。その場所の訳註を参照。
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ヨオロッパにおける最も普遍的な致命的な伝染病と考え得る天然痘は、多くの地方で規則的に囘起してはいるけれども、一切の伝染病の中でおそらく最も説明の困難なものである1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。ショオト博士は、この疾病の歴史から見て、これは天候や季節の過去または現在の情勢とはほとんどまたは全く関係するところがないらしく、そして厳霜の候には幾分減退するが、時期と空気の状態とを問わず伝染流行する、と云っている。吾々は思うに天然痘がどういう状況の下ではっきり発生したかという事例は知らない。従って私は、貧困と密集家屋とがそれを絶対的に発生せしめたのだとは云うつもりはない。しかし私は、その囘起が規則的であり、そしてそれが、子供なかんずく下層階級の子供の間に猖獗を極めるところでは、通常よりも甚だしい上記の事情が、常に天然痘の発生に先行しまたは同伴しなければならぬ、ということにならざるを得ない、換言すればその流行が終ると、子供の平均数が増加し、人民はその結果としてより[#「より」に傍点]貧しくなり、家屋はますます密集して、そしてついに次囘の襲来がこの過剰人口を除き去るのである、と。
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1)[#「1)」は縦中横] Hist. of Air, Seasons, etc., vol. ii. p. 411.
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これらの場合にはいずれも、現実の疾病を発生せしめる人口原理の結果をいかに軽視するとしても、吾々は、それが伝染に途を開く原因であり、その範囲と害とを著しく大ならしめる力をもつことを、認めざるを得ないのである。
ショオト博士は、激しい致命的伝染病は、虚弱者や老衰者の多くを一掃するので、その後には一般に通常見られぬ健康状態が現われる、と云っている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。この事実のもう一つの原因は、おそらく、余地と食物との量の増加、従って下層階級の者の境遇の改善であろう。ショオト博士によれば、非常に多産的な年の後には非常に死亡と疾病の多い年が来、また死亡の多い年の後にはしばしば非常に多産的な年が来るのであって、これはあたかも自然が死亡による損失を防止しまたは急速に恢復しようと欲しているが如くである。一般に疾病と死亡の多い年の翌年は、残った生殖能力者に比して出生が多いものである。
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1)[#「1)」は縦中横] Id. p. 344.
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この最後の結果は(訳註)、プロシアとリトアニアの表に極めてはっきりと例証されていることは1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]、吾々の既に見たと
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