康を保つに必要な食物と施設とを超過したのだという考えを、抱かざるを得ない。この仮定によれば、人民の大衆は、生活を低下せざるを得なくなり、そしてより[#「より」に傍点]多数のものが一つの家に群集するに至っていたのであろう。そして国は絶対的の意味では、密集し人口稠密であったわけではなくても、これらの自然的原因は明かに疾病を生ずるに与って力あったことであろう。たとえ人口稀薄な国ですら、食物が増加し住居が増加しないうちに人口増加が行われるならば、住民は余地と食物とに苦しまなければならない。もし蘇格蘭《スコットランド》のハイランド地方で、今後十年か十二年間、結婚がもっと頻繁になるかもっと多産的になり、しかも移民が行われないならば、一軒の小屋に五人ではなく七人いることにもなろう。そしてこの事実は、生活程度を低下する必要と相俟って、明かに一般民の健康に対し最も好ましからぬ影響を与えることであろう。
[#改ページ]
第十三章 以上の社会観察による一般的推論
上来述べ来った諸妨げが緩慢な人口増加の直接的原因であり、そしてこれらの妨げが主として生活資料の不足から生ずるものであることは、生活資料の何らかの急激な増大によってこれらの妨げがかなりの程度除去された時には、常に必ず比較的急速な増加が生ずることから見て、明かであろう(訳註)。
[#ここから2字下げ]
〔訳註〕本章の次のパラグラフ以下の部分は、第一版の第六章及び第七章に該当する。ただし細かい文字上の訂正加筆が多過ぎるから、重要ならざる変更は一切指摘しないこととした。
[#ここで字下げ終わり]
余地と食物の十分な健康国に樹てられた新植民地は、すべて、絶えず急速な人口増加を遂げたことは、普く認められているところである。古代ギリシアの時代から生じた植民地の多くは、一、二世紀する間に、母国に匹敵するに至り、時にはこれを凌駕することさえあった。シシリイのシラキュウスとアグリゲンツム、イタリイのタレンツムとロクリ、小アジアのエフェソスとミレトスは、あらゆる記録によれば、少くとも古代ギリシアのいずれの都市とも比肩するものであった。これらの植民地はいずれも、蒙昧野蛮な諸民族の住んでいた地方に樹てられたものであり、彼らはたやすく新来住者に屈服し、その結果新来住者は云うまでもなく豊富な沃地を獲得した。イスラエル人は、カナンの地をさまよっている間はその増加は極めて遅々たるものであったが、エジプトの肥沃な地方に定着するや、その滞留の全期間に亙って十五年ごとに人口を倍加したと計算されている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。しかし遠い事例を縷説せずとも、アメリカにおけるヨオロッパ人の植民地は、思うに未だかつて疑われたことのない一命題の真理なることを、十分に証明するものである。ほとんどまたは何物をも提供せずに肥沃な土地を豊富に得られるということは、一般に一切の障害に打勝つほど強力な人口増加の原因たるものである。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Short's New Observ. on Bills of Mortality, p. 259. 8vo. 1750.
[#ここで字下げ終わり]
いかなる植民地も、メキシコ、ペルウ、キトウにおけるスペインの植民地ほど劣悪な監理を受けているものは、容易にあり得ないであろう。母国の圧政と迷信と罪悪とはその植民地に多量にもたらされた。国王は法外な租税を誅求し、その貿易には勝手極まる制限が課せられ、そして総督は主人のためにも自分のためにも苛斂誅求を逞しくするに後れをとらなかった。しかもかかる一切の困難にもかかわらず、植民地は急速にその人口を増加した。インディアンの一村落にすぎなかったキトウ市は、約五十年以前に五、六万の住民を有した、とウロアは述べている1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]。征服以後に創設されたリマは、一七四六年の大震災前に、それと同一またはより[#「より」に傍点]以上の人口を有していた、と同じ著者は云っている。メキシコは十万の人口を有すると称されているが、これは、スペインの著者達の誇張にもかかわらず、モンテズマ時代の人口の五倍に当ると想像されている2)[#「2)」は縦中横、行右小書き]。
[#ここから2字下げ]
1)[#「1)」は縦中横] Voy. d'Ulloa, tom. i. liv. v. ch. v. p. 229. 4to. 1752.
2)[#「2)」は縦中横] Smith's Wealth of Nations, vol. ii. b. iv. ch. viii. p. 363.
[#ここで字下げ終わり]
ほとんど同様の圧政下にあるブラジルのポルトガル植民地には、三十年以上前に、ヨオロッパ系の住民六十万が
前へ
次へ
全109ページ中98ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
マルサス トマス・ロバート の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング