Aの若干の州の表によると事実らしく見える三人であると仮定すれば、この三人のうち一人が嬰児期、独身期に死亡する全部であると見るのは、比率が小に過ぎることが認められるであろう。しかしこの比率を認めれば――これは今の場合にはおそらく真実であるかもしれぬが――一結婚ごとに正確にちょうど二人の子供が新婚まで生存するということになり、この場合には、前述せるところによって、いかなる増加も不可能である。しかもこれらの同じ州では、出生の死亡に対する比率は、二六対一〇、二二対一〇、二一対一〇、二〇対一〇、等となっており、これは極めて急速な増加を意味する。従ってこの表は極めて甚だしい矛盾を有つわけである。しかも出生及び結婚に関する記述の正確なことを疑う理由はない。そして埋葬の若干の脱漏を斟酌すれば、出生の超過はなお大であろうし、また実際人口が増加しつつあることは前章で述べた人口実測によって確証されているのである。
『これらの表は矛盾はしているけれども、しかしそれは、各一結婚当りの産児数を表わす他国の表以上の矛盾を有っているわけではない。そして、それはおそらく、私が接したことのある一切の政治算術家がこの問題に関して陥っている極めて重大な誤りを説明することとすれば、次章において取扱う機会のある表のより[#「より」に傍点]よき理解をはかる上に与って力あることであろう。
『これらの表は、実際は、年結婚と年出生に関する実測である。そして両者の間の比率はもちろんその年に行われた出生の結婚に対する比率を正確に表わしている。しかしこの比率は、各個の結婚がその存続期間中に産んだ出生数を表わすものと推定されている。いかなる理由によってかかる推定が行われているかは、以下に述べるところによってわかるであろう。
『もし、移民の出国も入国もないある国において、極めて長期間に亙って生じた出生と結婚の数を得ることが出来るならば、結婚数の二倍、または同じことであるが、結婚者の数が、結婚まで生存した産児の数を正確に表わすことは、明かである。そしてこの数と出生数との差は、これまた正確に、嬰児期、独身期に死亡した産児の比率を表わすであろう。しかし、この期間における出生及び結婚の総数は、明かに、年出生の合計と年結婚の合計以上のものではない。従ってもしある国において、年出生と年結婚との間の平均比率を得ることが出来るならば、この比率は、その総数と同じことを、明瞭に表わすであろう。換言すれば、年出生と比較した年結婚者数は結婚まで生存する産児の比率を、また両者の差は、嬰児期、独身期に死亡する産児の比率を、正確に表わすであろう。例えば、もし年結婚の年出生に対する平均比率が、ある国において、一対四であるならば、この事実は、産児四人のうち二人が結婚まで生存し、他の二人は嬰児期、独身期に死亡することを、意味するであろう。これは極めて重要なかつ興味ある知識であり、これから最も有益な推論が引出さるべきものである。しかしそれは、各個の結婚がその存続中に産む出生数とは、全然異るものである。従って、右に行った産児の半数が結婚まで生存するという極めて通例の比率を仮定すれば、各個の結婚当りの産児が四であろうと二であろうと、または一〇〇であろうと、年結婚の年出生に対する比率は一対四であろう。産児一〇〇という数をとれば、今の仮定によれば、五〇が結婚まで生存し、出生一〇〇ごとに二五の結婚があり、しかも結婚の出生に対する比率は依然一対四であろう。同じ比率が明かに各一結婚当りの結婚二と云う場合にも妥当するが、けだしこの比率は一結婚がその存続期間中に産む子供の数によって少しも影響されるものではなく、単に結婚まで生存するこれらの子供の数、または一結婚の元となる出生数に、関するに過ぎないからである。
『年出生の年結婚に対する比率が各個の結婚当りの出生率と同一になる唯一の場合は、出生と死亡とが正確に同数の場合である。そしてこの場合それが同一になる理由は、出生と死亡とを正確に同数ならしめるためには、吾々は、各一結婚は正確にもう一つの結婚を生じ、そして各一結婚から何人の子供が生れるかを問わず彼らは一組のほかは全部嬰児期、独身期に死亡するものと、仮定しなければならぬ、という事実である。かくて、もし各一結婚が五人の子供を産み、そのうち二人だけが新婚まで生存するとすれば、年結婚の年出生に対する比率は一対五であり、この後の数は、仮設によって、各個の結婚が産む出生数と同一のものである。しかし各一結婚の産児が結婚する一組以上か以下の場合には、換言すれば人口が増加しつつあるか減少しつつある場合には、常に、年出生の年結婚に対する比率は、各個の結婚がその存続期間中に産む出生の比率とは同一であり得ないのである。
『従って、それらが同一であると仮定する場合には、
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