、家族数が増加しても森林についての権利はこれを与えないことを契約する農業者から、買取る。こういう買取をした商人は、小農業者や家人《ハウスマン》が木材を自家用に取らぬ限り、格別頑固なことは云わぬそうである。これらの森林地を売却した農業者も、家畜を放牧し、家屋、修理、及び薪炭用に充てるに足る木材を伐採する権利は、法律上これを留保しておかなければならぬ。
 住居の周囲にある一筆の土地も、まず森林の所有者に、その土地が植樹に不適当であることを述べて申請し、次いで地方長官に申請しなければ、耕作の目的で囲込むことは出来ないが、後者の許可が必要なのは、おそらく所有者の許可を合法的に得たか否かを確かめる目的のために必要なのであろう。
 これらの云わば人為的な、耕作改良に対する障害に加えて、この国の性質が、耕作や人口が土地の面積と何らかの点で釣り合うことに対し、打克ち難い障害を与えている。ノルウェイ人は、遊牧状態にはいないけれども、未だかなりの程度に牧畜状態にあり、そして著しく家畜に依存している。山地に接する耕地は絶対に穀物の栽培に適せず、その唯一の用途は夏期の間三、四箇月家畜を放牧することである。従って農業者は、この季節には、その全部の家畜をそこに送り、これをその家族の一部の監督に委ねる。そして彼らが販売用または自家用のバタやチイズを全部作るのはここである。そこで非常に困難なことは、その家畜を長い冬の間養うことであり、そのためには、谷間の最も肥沃な広い土地が乾草の刈取に当てられなければならぬ。もし過大な土地が耕作に取られると、家畜の数はそれに比例して減らされなければならず、そして高地の大部分は絶対に無用になってしまうであろう。そしてこの場合、この国が全体としてより[#「より」に傍点]大なる人口を養うことになるか否かは問題であろう。
 しかしながら、これら一切の障害があるにもかかわらず、ノルウェイには非常に大きな改良の余地があり、それは最近行われはじめている。コペンハアゲンの一教授から、私は、ノルウェイの農業の進歩がかくも緩慢であったのは、改良農業の範を示し、そして農業上の父祖伝来の無智と偏見を打破すべき郷紳がいなかったからである、と聞いた。私がノルウェイで実見した所からすれば、この欠陥は今はある程度除かれたと云いたい。多くの聡明な商人や事情に通じた一般官吏が現在農業に従事している。
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