てその地所を抵当に入れまたは他の方法により弟や姉妹1)[#「1)」は縦中横、行右小書き]の分け前を支払うことが出来る場合には、その全部が長男に与えられるのである。そして習慣の力と生来の怠惰とのために、多くの場合長男は、その農場を先祖代々のやり方に倣って経営し、改良の努力はほとんどまたは全く払われないのである。
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 1)[#「1)」は縦中横] 娘の分け前は息子の分け前の半分である。
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 ノルウェイにおける農場の改良に対するもう一つの大きな障害は、オーデル権と称せられる法律であり、この法律によって直系の子孫は誰でも、この家族から売り渡された地所を、その際の買値を支払って買戻すことが出来るのである。以前には直系子孫と同じく傍系子孫もこの権利を有ち、そして期限は絶対になかったので、買手はいつ請求されるかわからないという状態にあった。その後期限は二十年に制限され、一七七一年には更に十年に制限され、また一切の傍系子孫は除外された。しかしながらそれは十年間の連続所有でなければならない。けだしもし、この期限満了前に、法律上の請求権者が、所有者に対して、自己の請求権を抛棄しないことを通告するならば、彼がその時に買戻し得る境遇にいなくとも、所有者は更に六年間待たなければその所有を保証されないのであるから。そしてその上、直系の長男は、弟の買戻した土地を更に請求出来るのであるから、この法律は、現在の改訂された状態でもなお、改良に対する非常に大きな障害と考えなければならぬのであり、そして昔の状態では、期限に限りはなく、そしてこうした地所の売買がもっと頻繁に行われたのであるから、この法律は、あたかも農場の改良に対する最も完全な障害たるに相違なく思われ、また明かにノルウェイの人口増加が幾世紀にも亙って著しく緩慢であった事実を説明するものである。
 土地の開発や開墾に対するもう一つの困難は、森林に関して大木材商が有つ懸念から生ずる。農場が子供や孫に分割される時には、その各々は森林に対して一定の権利を有つことになるから、各人は一般に出来るだけ多く伐採しようとし、かくて樹木は小さい中《うち》に伐り倒され、森林は荒らされる。これを防ぐためには、商人は、広大な森林地を、農場をこれ以上は分割せずまたはその家人《ハウスマン》の数を増さないことを契約するか、少くとも
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