で眼のお正月をさして戴きませうと。あれよこれよと撰り好むお艶が、手に取るほどのもの、喋々しく誉め立てぬ。お鈴もさすが年若き女のたかね[#「たかね」に傍点]の花とは知りながら、これもその場を去りかねて、お艶の機嫌とりとり品|評《さだ》めするにぞ。賑やかなる声はかなたにも漏れてや、お秋の部屋に人形の着もの縫ひゐたるお静の、何事と見に来りしが、見れば取広げたる呉服の数々《しなじな》、中には我のと覚しき、赤地錦の帯もあり。秋の七草を染め出したる京友仙の美《うるわ》しきは、ちやうど袷になりもやせむ白地博多に太やかなる赤の一本筋は、ちとあつさり過ぎたれど、いづれ心づくしの品ならぬはなし。物心付き初めたるお静は、見るからに好ましく、彼や我がものとしたまふらむ、これはいかにと、お艶の顔と品物とを、七分三分に見競べての物思ひ。なさぬ中とて、さすがこれをとはいひ出でねど、心を配る様子を見てとり、如才なきお吉はにこやかにお静に会釈し。これはこれはお娘様《じやうさま》の、いつお見上げ、申してもおとなしい。おつつけ若旦那様の御卒業あそばしてお帰りなされむには、あなた様の、いやと仰せられても、御母様の捨置きたまふ
前へ
次へ
全24ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
清水 紫琴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング