ゑさせ、鼠縮緬の坐蒲団の上に立膝したるお艶、今しもお吉が結ひ上げたる髪を合はせ鏡に照らし、小判紙を右の中指《なかざし》に巻きて襟のあたりを拭ひゐたるが、お吉は例のお世辞よく、煙草吸付けて先づ一ぷくと差出しつ。奥の方を冷やかに見遣りてニヤリと笑ひ、それではあちら様へも伺ひませうかといふは、お秋を指さすなるべし。ハアやはりネー、同じにしないといけないからねとお艶の軽くうなづくを受けて、お吉もまた仰々しくしばしばうなづき、真実にネーお大低じヤアありませんネーと意味あり気にお艶の顔を見る、ここらがお吉の三略なるべし。折から伴働《なかばたら》きのお鈴は次の間より、太やかなる頸を突出して、アノー大丸が御注文の品を持つて上りましたと申して、前刻からお待ち申してをりますが。アー次へ通しておくれとのお艶の指図に入れ違へて大丸の手代は、早くも次の間へ伺候しつ。見上ぐるばかりの風呂敷包手早く解きて、注文の品々ズラリ並べ立てぬ。如才なきお吉は、あるひは半襟の一ツにでも有り付かむかと、忙しき身の立ちかけたる腰を据ゑて、ヲヤヲヤどうも立派です事ネー。私達はとても大丸さんの、お店へは上がれませぬから、せめてはこなた
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