は鬼の来ぬ間の、洗濯時とは今日この頃の事、お艶どのも、大方須磨で今頃はお楽しみであろ。我等は似合ひのお芋の御馳走、出し合ひで買ふじやないかと、お針の発議はたちどころに成立ちて、藤助|爺《おやじ》は使命を帯び、風呂敷片手に立出でたるが、やがては焼芋の砲煙弾雨に、お艶の噂も中止となりしなるべし。
その二
日髪日化粧の昔日に引替へ、今は堅気の奥様風、髪は月六才の定めにて髷は丸髷の外は、品格下るといひて結はず。お妾さんの品格とはどんなものにやと、蔭で舌出す髪結のお吉《きち》も盆暮の祝儀物、さては芝居のお供に外れじと、喋々しきお世辞にお艶を嬉しがらす奥の手は、いつも丸三郎の噂なり。私が髪結風情ならずば、身上打込んでも大事ない男と、櫛取る手さへ止めて、心底丸三郎贔負のやうに夢中になりてのはなし振り気に叶ひ、さんざん人をたらせし覚あるお艶も、これにはふいと釣込まれて、下女下男よりは吝嗇《けち》と譏らるる身が、お吉よりは天晴れ切れ離れよきお妾さまと誉められぬ。
四畳半の小坐敷に、本段通二枚敷き列ねて、床の間の花瓶には白菊二三本あつさりと活けたるを右にして、縁側の明るき方に向ひ紫檀の鏡台据
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