事でなし。それはそれは沢山お求めあそばしましように今からその用意にちとおねだりあそばせとや。かかる事いはるるは常なれど、お静は子供心にも恥づかしく、またしてもお吉のそんな事いふものでなしと。ツンと澄まして横を向きたる折ふし、お秋の姿チラと向ふの縁側に見えたるに心付き、オオ伯母様の定めて御覧なさりたかろにと、お艶がお待ちといひたる声は耳にも入らず、足早に馳せゆきて、さも大事件の起こりたるかのやうに、伯母様伯母様アノー大丸が美しきもの、たくさん持つて参りました程に、あなたも御覧あそばしませぬかと我が見たきもの見せて喜ばせむとの子供心嬉しく、お秋は進まぬながら手を携へられて入来りしに、お艶はジロリとそなたを見たるのみ、お吉お鈴さへも無言なり。お秋は何となく気の咎められて、縁側に佇みをりしに、お静は何の気もつかず。伯母様そこでは見えませぬ、こちらへお這入りあそばせと引張るやうにして、お艶と我との間に坐らせ、伯母様これが私には宜しいでしやう、ホラこの間申しました松村さんのお嬢さんのは、ちやうどこんな風なのですよと。思はず手を伸べて、一ツ二ツお秋の方へ引寄せむとするにぞ、お艶はこらへかねて、人知れ
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