ぬやうにお静の手をピチリとひねり、およしよ、子供が出しや張るものではないと、お秋にあててお静を叱り、更にまた詞をあらためてお秋に向ひ奥様も何か御入用にや、御入用の品あらば私まで仰せ置かれたし。奥様のはおじみな柄、お年寄のはたいてい極まつたものなれば、私が見計らつて、後から鈴に持たせて上げませうにと、いふは敬して遠ざくる算段と早くもその機を見て取りしお吉、俄に空々しき辞儀を施して奥様の何時の間に入らせられしやら、ツイ夢中になつて、拝見致してをりましたので飛んだ失礼を致しました。どれおぐしをお上げ申しませうか、お鈴さん憚りながらおくせ直しのお湯をとの詞をきつかけに、お鈴もまたその意《こころ》を得て、常には軽さうにもあらぬ尻振り立てて行く後姿にくらしく。よくもこれ程いひ合はしたやうに奥様をおもちやにせらるるものと。お秋よりは、大丸の手代眼を団《まる》うして見送りぬ。跡にはお艶が好みの品々に添へて、価貴きものの一二反は、丸三郎の贈りものとして購はれし事なるべし。(『女学雑誌』一八九六年一〇月二五日)

   その三

 有為転変の世の習ひ、昨日までは玉楼金殿の裏に住居し貴人さへ、今日は往来の人
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