に道を狭められ車夫にさへ叱り飛ばされ、見るもいぢらしき姿となるがある世に、算盤珠の外れ易き、商業界に身を置きし金三の、流行紳士ともてはやされしも一時。淵は瀬となる世の中に、名詮自称の金三のみ、いかでかはその数に漏るべき。かねてしも財源と頼みてし会社の一朝祝融の怒りに触れて、十年の経営たちどころに灰燼に帰し、百千の株券とみに市場の声価を失ひたるより、いかでこれを恢復せばやと、再興の計画にをさをさ肝胆を砕く折も折。我が名義にて営みし私立銀行の、忙しきままこれまで人任せにしたるが、何事もなかりしに、役員の不始末より破産の不幸に逢ひ、無限責任の悲しさには、債務ことごとく金三の一身に集りぬ。されど金三は年頃の派出やかなる暮しに少なからぬ借財もありて、巨万の富を重ねしと見えしも、その実融通一つにて支へたる身なれば、今かく重なる不幸に逢ひては、資産の全部を、手離さではかなはぬ仕儀となりぬ。その噂早くも伝はりて、債権者の名々、我も我もと先を争ふて責め寄するにぞ、さすが商界の一老将も、力つき謀窮まりて、我が住居さへ保ちかぬる様子を、見て取りし妾のお艶、足もとの明るき内に、辞し去るが上分別と思へるにや。あ
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