る日金三の機嫌よき折を見て、今日この頃のお心遣ひ、私の眼にはありありと、そのお窶《やつ》れが見えまする。所詮女の身の力及びませねど、日頃の御恩報じは今日この時、もとの島へ戻り二度の花咲かせむも、それはかへつて旦那様のお顔汚し。それよりは私が下女代はりを致してなりとも、口を減らさせましたい心なれど、馴れぬ水仕事は、奥様もお遣ひあそばすにお骨も折れませう。まだしも慣れた事なれば、もとの土地へ帰りまして、お茶屋でも始めたならば、私の古い馴染もあり、旦那様の御贔負受けたお茶屋も少なからねば、引立ててもくれませう程に。さすれば旦那の、お助けとはならぬまでも、私とお静の二人口に、御心配かけぬだけの事は出来ませう。別に資本のいると申すでもなし座敷の飾り夜の具《もの》皿小鉢のいくらかを、分けて戴けばそれで済みまする。いかがなものといひ出でたるを、瘠《や》せても枯れても我《わし》は淵瀬、そなたの力を借るまでもないと、初めは笑ひて取合はざりしが、お艶が切に請ふて止まざるにぞ、さらばそなたの気の済むやうと、島の内に相応《ふさわ》しき貸家求めさせて望み通り引移らせぬ。お艶は得たりと我が衣類調度は更なり、その外
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