何くれとなく借受けて持運び。始めは本宅へのおとづれ怠らず、金三をもしばしば呼び迎へて快く待遇《もてな》しそれこれの事指図を仰ぐにぞ、金三もかかる場合ながら、新たに別荘得たる心地して、掛物もこれ、敷物もこれと、追々に本宅のもの持来りて、多くはお艶の方に在るにぞ、お艶の新宅躰裁よく調ひたる頃は、淵瀬の倉庫はいつしか空しく、座敷までも明屋《あきや》めきぬ。お艶はここらが見切り時と思はぬにはあらねど、とみには冷やかなる気色も見せず。されど居心よきままに、いつまでも金三の入り浸らむには、様付の居候置きたるも同様にて、果てはかくまで謀りたる甲斐なからむと、追々には針を包みたる美《うるは》しき詞にて、お客商売に殿御は禁物、殊には世上にお顔広き旦那様の、ここに居たまふ事人に知れては出入るお客の、気を置かるるもあるべきに、なるだけ人に、お姿の見えぬやうにしたまへかし、この間も御存知の何某様二階にて大浮かれの最中、旦那様のお声聞こえてより、拇指《れこ》は内にかと俄の大しけこみ、それよりは花々しき騒ぎもなく、そうそうにお帰りなされしより、私も始めて気がつきました。商売大事と思ひ給はば、その御心したまひてよと
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