その上で大学でも御卒業なされて見や、それこそ大したお人にならるるなり。その時こそは奥様もしめたもの、いくらお艶が威張らふとても、若旦那の代になれば訳もなく閉口しやう、そこでこちとらもその時は甘《うま》いものも喰べさせて戴き、永年辛抱の御褒美に有付くというものよといふを言はさずお針女は進み出で、お前さんは未だ眼が低い、そこらにぬかりのあるお艶ではなし。一人息子の金之介様動きなきお跡取りとは、お艶もチヤンと知つてかかり、己が身寄りのお静さんを、養ひ女《むすめ》として育ててをるは、何の為ぞと思はるるや、旦那様は御老人、その亡き後はお静さんを、若旦那のお嫁にして、親顔せうとの深いたくらみ、それなればこそまだ十三の小娘のお静さんを、若旦那の夏休みにお帰りなされし時は、一倍も二倍もつくりたて、お茶のお給仕煙草の火、小間使ひにでもさすべき用を、若旦那の事といへば何でもお静さんにいひ付け、今日は堺の大浜、明日は大川の凉みと、下へも置かず若旦那の御機嫌とるは、我等の咽喉しむるお艶の所作とも覚えず。それもこれも我が身の行末を案ずるからの事とは、この私の黒い眼で睨《にら》んでおいた。お艶の曲事《ひがごと》は
前へ
次へ
全24ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
清水 紫琴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング