」、第3水準1−85−25]《かたとき》ここの家に置かるる事でなし。今日までにこれでしくじつたが幾人《いくたり》と指折りかくるに、瘠せぎすなお針女はこれを抑へて、こんなことは、奉公人の我等の搆ふた事ではなけれど、腹立たしきはお艶めが、奉公人の咽喉《のんど》をしめて、旦那に我が世帯持ちよき手柄見せむとて、奥様の万事鷹揚なりしに引替へ、朝は天井の映るやうなお粥に、香のものは三年越の古たくあんばかり、新漬ものはお醤油がいるといふて喰はさせず。なるほどこれ位にしたならば、これこれの雑用が減りましたと、旦那への手柄顔は出来やう、それがまたぞつこん旦那の気に入りて、三味線の外持ちたる事なき身の、釜の下まで気を付くる心遣ひ、嬉しいぞや過分なぞやと、サそこまでは聞かねど、何でもそこらの事であつたと見え、お艶の受けはよくなるばかり、これで末まで通せるものならば、悪い事はせぬが損と、思はずこれも力み返るに、藤助くはへ烟管をポンと叩き、それがサア若旦那も今年はもう十八お艶のさしがねに出た事とは御存知なく、嬉しさうに東京へ、修業に御出でなされたは、はや三年越来年あたりは高等学校とやらへ、御入学も出来るとやら、
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