の我儘述べ立てたるは、本宅へ這入らじとのたくみなりしに、お艶にぞつこんはまり込みたる金三のかかる事聞きても打腹立たず。可愛き子供にあまへられてでもをるかのやうに、あれもよし、これもよしとうなづきて、さすが商業界の利者《ききもの》とも云はるる身が、みんごとお艶に降伏したるは、遼東還附の一条よりもなほかついひ甲斐なき事なりしとのこの条《くだり》は年久しく仕ふる藤助といふ老僕が、まばらなる歯を喰ひしばりての述懐たり。赤ら顔のお三がその後を継きて、そこでサアお気の毒なはお心よしの奥様、旦那様より仰せ渡しでもあつたものか、妾風情のお艶に御遠慮なされて、いっさい旦那様のお傍へはお寄りなされず。旦那の御用は何もかもお艶でなければ埓明かぬと、覚悟をお定《き》めなされてか、一にも二にもお艶どのお艶どのとお頼みなされ、御自分は御隠居気取りの引込思案これ程歯痒き事はなし。もしこれが我が身ならばお艶を出すか、自分が出るか、二ツ一ツのはなしをつけても、奥様には金之介様といふお子もある中、なんのなんの御親類方がだまつて見てゐらるる事でなし。とはいへ奥様いとしといふ素振仮りにも色に顕はれては、一日|片※[#「日+向
前へ 次へ
全24ページ中4ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
清水 紫琴 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング