手紙《わびじやう》持たせお艶の方へ送り返しぬ。
それよりお秋は、お静の事いひ出でては気遣ひしが。一月あまり経ちたる頃ゆくりなくもお静よりの手紙届きぬ。何事と開き見れば。
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「急ぎ御願ひ申上候この程より母事俄に病気づき養生かなはず遂に昨夜死去いたし参らせ候今は申上候も涙の種なれどその二三日前より深くこれまでの事後悔いたしなき後は何事も御断り申上候て家財はのこらずあなた様へお返し申上私事は下女になりとも御めし遣ひ下され候やうくれぐれも御願ひ申上よと申しのこし参らせ候それにつけてはゐさい御目もじの上申上たく候まま何事も御ゆるしの上御二方様の内御越いただき候やうくれぐれも願上参らせ候とり急ぎあらあら申上候かしく」
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されど金之介は、思ふよしやありけむ。お秋の心もとながりて、我ゆきて見むかといふをも止めつ。ただ人していはせけるやうは、お艶の遺財は、たとひもと父の、彼に与へたまひしものなればとて、我の再びこれを受けむやうはなし。ただお静の、外によるべなければとて、身一つにて我方に来らむは差し支へなし。母上もいとほしきものに思ひたまへれば、いかやうに
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