らましを告げて、年頃の御なつかしさ是非に一度御尋ね申したしとの心、夢の間も忘れませねど、御住居の知れ難さに、今日まで空しく過ぎしなれど、いよいよ来《こ》む春よりは芸妓に出されむといふ身辛く。いかにもして一度父様に御目にかかり、その御指図をも戴きたしとの願ひ切なる折から、運よくも、昨日髪結のお吉の、福島村あたりに、詫び住居したまふ御様子との事、母様にささやきしを漏れ聞きて。詳しくは分りませねど、よも知れぬ事はあるまじと、大胆にも今日の昼過ぎ、母様にはそちまでと偽りて、福島村まで参り、そこよここよと問合はせましたれど、そんなお方は知りませぬと、いふ人のみにて手がかりなく。尋ねあぐみしその内に、日は暮れ果てて飛ぶ鳥も、塒《ねぐら》に急ぐ時となり心細さの堪へ難ければ、ひとまづ家に帰らうと、ここまでは参りましたのなれど、思へばかくまで晩《おそ》なはりし身の、何といひ訳したものと、心付いては足も進まず。幾度かこの橋を行き戻りして時を移し。今は帰るに帰られず、いつそこの川へ身を投げむかと、死神に誘はれてゐましたのに。計らずお目にかかつたは、何よりも私の仕合せ。母様の縁に繋がる私の身、不憫とは思し召す
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