へ、お秋より教へられて、おぼろけながら女の道をも弁《わきま》へつ。我が母なるお艶の、お妾さまといはるる身なるが、情けなく恥づかしという事も分り。せめては金三を父様《ととさま》と呼ばるるが勿躰なけれど嬉しき事に思ひて、日を送りしに。ゆくゆくは金之介様のお嫁にとの、お艶の心搆へ聞き知りてよりは、身を重んずるといふやうなる心も出来て、お艶よりはお秋を見習ひ、蓮葉ならぬ育ちたのもしかりしに。お艶の方へ引取られてよりは、昨日までもお嬢様と呼ばれし身の。何事ぞ生酔の客に、手を引張らるる事もあり、なまめかしき芸娼妓より、姉さんと親しげに言葉掛けらるるが、身を切らるるより辛く。などて母様の、かかる営業《なりはひ》したまふらむと、それさへに悲しかりしに。日頃好まざりし三味線一時に浚《さら》へさせられて、明くる春よりは芸妓に出ねばならぬ身の、その撥の持ち方はと叱られてより。さてはさうかといつそう我が身の上悲しく、いかで父様の、かかる折にも来まさむには芸妓にならで済むやう、母様にもいふて戴かふものと。そぞろに金三の上忍ばれて、お艶に金三の事聞き合はす時あれど。お艶はいつも不興気にて、父様とは往年《むかし》の
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