若き人のみの寄合とて、時ならぬ笑ひ声に近隣の人を羨せぬ。
 常さへあるにまだ注連あかぬ正月早々とて、日毎の客来絶間なく、夜の更くる事も珍らしからねば、喜ぶは御用多き出入の酒屋と、御馳走に有付く洋犬となれど迷惑なは下女のきよ[#「きよ」に傍点]、これきよやあれきよやと、追遣はるる忙しさも、平常がらく[#「らく」に傍点]なだけにきよ[#「きよ」に傍点]もぼやかず和気は家内に充ち充ちたり。今日もおととひより三晩続けて来る、甲田が昼よりの居浸りなれば、大方また夜の更ける事であろと、きよは宵より台所の火鉢の傍にて、コクリコクリと居睡り始めぬ。
 奥には六畳の小坐敷をしめ切りての花遊び、主客と細君妹の四人が、四季の眺めに飽かぬといへば、風流げに聞こゆるなれど、これは殺風景なる輸贏《かちまけ》の沙汰もその身に取りては競争の面白ければにや、いづれも夜の更けしをも知らぬさまなり、花子は身にしむ寒さにふと心づき、おや、もう一時過ぎなのですよと誰にいふともなし独言ては直之輔は振向きて時計を見ちよつと気をかへて、一時が何だ何が恐ろしい、一時だつて二時だつて搆うものか、サアサアもつと遣るべし遣るべしヲイお菊(細
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