も軽井の為には大事の得意なればイヤごもつともなるほどなるほどと心底感心らしく聞きてはゐたれど、何よりも心配なは君子の父の昔堅気なり。そこをどうしたものと、少し思案の首を傾げたれど、もとよりかかる事には抜目なき古狸いかやうにもごまかすつもりにて、イヤ宜しうござります。ともかくも計らうてみませう。だか旦那新橋や葭町のと違つて、少しは手間どりませうからと、勿躰らしくいふに甲田はニヤリと笑ひ、イヤさう首をひねらなくツとも、何もかも承知してゐるサ、貴公の手腕はかねて知つとるんだから、どんな難物でも説き付け得ぬ事はなかろう。その代はりいつか持て来た応挙、あれは少し恠《あや》しいのだが、買ツといてやるサ、自他の為だ尽力すべしかハハハとおだてられて軽井は内かぶとを見透されじとやいよいよ真顔になり。イヤ旦那そりやアおひどうごす。あれはあれでもつてどこへでも通る品でがすから。で別にどこへか連れて行けといふのか。ヘヘヘヘ全くもつてさようの訳ではヘヘヘヘ実は旦那こうなんですが。あの叶屋の御愛妾と、花月の女将が私の顔を見ますると、旦那をどうしたんだ、なぜお連れ申さないツて、私の存じた事か何ぞのやうに、やかましく
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