る事ありとか聞けど、その後久しく官辺との縁故も絶へて、公債の利子持地の収入などによりて、閑散なる生活を営みゐる身なれば、次第に世とも遠ざかり、何事をも聞き知るべきの便宜なきをや、されば甲田を日本一の花聟とのみ思ひ込み、何ぞのふしには君子をば、幸福ものじや幸福ものじやといふが今日この頃の口癖なり。甲田は例の好き心より、いかにもして親しく君子の方へ出入りし、これに近寄る便宜を得ばやと、申し込みの節橋渡しの役に当らせたる幇間的骨董商の軽井といふを招き寄せイヤどうもこの間中は大変お骨折だつた。貴公の尽力でもつてどうか竹村の親爺も承諾したさうで安心した。がまだ直ぐに結婚するといふではなし、半歳と一年は待つて貰わなくツちやアならないのだから、その間に交際してみるといふ訳には行くまいかネ。日本ではとかく結婚前に本人同士交際してみるといふ事がないもんだから、得て苦情が後で起こるんだ。君子の性行は随分いいやうに聞いとるもんだから、それでおれも貴公に尽力を頼んだのだか、さて極まつたとしてみると、少しは交際もしてみたいネと真面目にいはれてみれば、何事も御意にござりまするといふが軽井の商売、殊に甲田は竹村より
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